16人が本棚に入れています
本棚に追加
簡素なベットは、蛍光灯に照らされていた。笹川の寝床になっている部屋は、書類とベッドしかないものであったが、研究室から隔離されているだけ安心できる空間でもあった。
「笹川さん」
「……なに」
また、危険な事はやめてくださいと言われるのだろうなと笹川は踏んでいた。そんなことは、言われなくても分かっていた。俯く笹川は、柄にもなく拗ねた小学生の様だった。
「この状況が打破できたら、映画に行きませんか」
「映画?」
笹川はベットに腰かけると、森宮を見上げた。先ほどまでなにをやっているんだと怒っていた森宮は、困ったように笑っていた。
「自分が見たかった映画がロードショー中にこんなことになってしまって、見れてないんです」
「……やってるかしら」
「それと、終わったらメシ……ごはんにいきましょう。美味しいところ知ってるんです」
「……どんなところ?」
「パスタが美味しいところで、気取ってなくて、うまいんです」
パスタはお好きですか、とベッドに座っている笹川と目線を合わせる様にしゃがんだ。子供の様な扱いに釈然としないながらも、笹川はにやりと笑った。
「案外女性の扱い慣れてるのね。食堂系のしか分からないのかと思った」
「慣れてないですよ……ただ、洋食も好きってだけです。ああ、コーヒー好きですか?」
「好きだけど」
「いい喫茶店も知ってます。映画の後いきましょう」
「……それは」
「はい?」
「それはデートのお誘いかしら」
「デ……!?」
「違うの?」
「いや……そ、そうですね、そう思ってもらえたら、ありがたいというか、その……」
森宮は、いやあ、と照れながら首筋を書いた。ここまではっきりと誘っておいて、デートと言われたら照れるのかと笹川は不思議にも感じた。
「……コーヒーも、パスタも、映画も好きよ」
そう呟くと、森宮の顔はパァと明るくなった。
「わっ!」
笹川は、森宮の襟を掴み引き寄せる。よろける森宮は、ベッドに手をついた。
「約束ね」
森宮の視界は、笹川で満たされていた。柔らかな唇と、ふわりと香る笹川の髪の匂いだけ、森宮を包んだ。
最初のコメントを投稿しよう!