惨事

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  「おい、なんなんだこれは」  ゾンビのような奇妙な病の人々が出現してから、約1日経った頃ようやく日本の政府が動き始めた。現日本の総理大臣、山本総理と警察、自衛隊、科学、医学会の重鎮たちが総理官邸に揃っていた。広々とした会議室に集まる姿は圧巻である。 「ここに来るまででやっとでした」  そういった教授はなんど噛まれそうになったことか……とはげあがった頭に馴染んだ汗をハンカチで拭いた。  会議室は個々で話し始めザワザワとする。家内が、子供が。うちは地下があるからと、私語が会議を埋めていく。  当然、偉くても賢くても恐ろしいものは恐ろしいのである。ヤツらに襲われた時に守ってくれるのは賢さでも地位でもない。では何かと問われると、今はまだ方法がないのである。 「痛みを感じないのか、自分の歯が折れても噛みついていましたよ……」 「ほんとう、まるでゾンビだ……」 「あれは病気か? ウイルスか?」 「わかってたら苦労しないだろう」  会議室がざわめく中、自衛隊員が口を開く。 「なんと言えばいいかわかりませんが、……発症者は出来るだけ隔離しています」  ですが、力のリミッターが外れているようで、隔離も時間の問題です。と汗を垂らしながら言った。科学の権威は焦った様子で、射殺はできないのかと警視総監に問いかけた。 「射殺は無理でしょう、元は一般市民です」 「じゃあ早く原因を突き止めろ!」  総理は机を強く叩き、頭を抱える。その机の音は、一瞬にして私語を吹き飛ばした。その様子に、総理に声をかけるものは誰もいなかった。  少しの沈黙の後、白い髭を生やした柿原 源蔵医師が口を開く。 「射殺がイカン‘‘一般市民’’を、勝手に腹を開き実験していいもんかね」  柿原医師が白いあごヒゲを触りながら言った。全員の視線が、柿原医師に注がれる。柿原医師は、どこをみているのか分からない目で話した。 「‘‘あれ’’を一般市民として扱うのであれば、色々なことが制限されますぞ」  当たり前に、このような対策法などこの日本には敷かれているわけでなく、どこまでが人間なのかも判断がつかなかった。 「あの症状を調べるとしたら、血液、臓器から脳様々調べないといけない。検査といっても献体はボロボロになりますぞ」  確かに……そんな空気が会議室に流れる中、頭を抱えたままの総理は、歯を食いしばりながら息を荒くした。 「あんな……自我のない化け物、人間としてみなくてもいいだろう」 「化物と」 「ああそうだ」  発砲許可を、と言おうとしたところで柿本医師がまた口を挟む。鋭い目を更に鋭くさせ総理は柿原医師を睨んだ。その攻防に、周りの人々は息を飲む。 「自我がなければ人間でないと」 「そうだ」 「なら脳死はどうなる」  会議室は、シンとした。 「発声ができない障がいが出ただけかもしれん。痙攣が出ただけかもしれない。もしかしたら、はっきりと自我があるのかもしれない」  無暗に殺すのは危険すぎる、と変わらずヒゲを触りながら言った。しんと静まりかえる中、自衛隊のトップ 統合幕僚長が口を開けた。 「いま、症状発症者を一つの施設に入れているが酷いものだ。いつ拘束具が壊れるやもしれん。柿原医師のいう通りであれば、人権侵害にも及ぶ拘束の仕方だ」 「な……」  早急の原因解明を、と付け加えた。頭の血管が切れそうなほど、総理は力が入っていた。 「くそ……」  総理は依然、脂汗をかきながら頭を抱える。
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