邪魔

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「何──してるんですか?」  聞き慣れた彼の声。後ろを振り向く。そこには、トイレから出てきた彼の姿。安心した私は、彼の方へ歩み寄った。すると彼は、眉間にシワを寄せ後退(あとずさ)った。 「誰ですか? 勝手に人の家に入ってきて」  え? 私だよ? あなたの大切な恋人。ほら、そこかしこにある写真立ての中で微笑む私だよ。 「いい加減にしないと、警察に電話しますよ」 「笑えない冗談はやめて!」  (すが)るように彼に近づいて行った。すると彼はポケットから慌ててスマホを取り出し、電話をかけ始めた。警察ですか──と送話口に向かって叫ぶ彼。 「なんか、バケモノみたいな顔の女が勝手に家に入ってきて。はい、全く知らない人です。住所はですね──」  バケモノ? 私を憎悪の塊にしたのはあなたでしょう。私の心を裏切りで切り刻んだのはあなたでしょう。あなたのせいで、私はバケモノと化してしまったんだ。全てお前のせいだ。  手にしたナイフが、彼の脇腹にめり込んでいた。彼の着る白いワイシャツが血に染まる。引っこ抜いては、また刺した。裏切られた回数だけ刺した。裏切り? 全ては私の妄想だったのかもしれない。でも、そんなことどうっだっていい。私は苦しんだ。だからこれは復讐。気が済むまで刺したって、誰も(とが)めやしない。ざまあみろ。邪魔な妄想よ、消し去れ。そして、お前もこの世から消えてしまえ。
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