飼われ屋さん

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 しかし、せっかく理想の姿を望めるのだから、ほとんどの人は、素材そのままで好みに合うように希望するものなんだぞ。  なんなんだ、メイクをすればする程、自分の好みになっていく顔がいい——というその願望は。  おかげで私は化粧の仕方を勉強し、ここに来てからも練習し続けなきゃならなかったじゃないか……。  上手くなっただろう。最初の頃よりもっと君好みになっただろう? ……褒めてくれたからな。化粧品の香りがよく分かる距離まで近付くと君の幸福感が一段階上がるということも、知っているんだぞ。  君は私の居場所を作るために、荒れ放題だった部屋を片付けて掃除機をかけ、買い出しをした。  まさか全く手伝わないとは思わなかっただろう。家事手伝いサービスではないからな。私は君に世話をさせるだけなんだ。  食事も、作ってくれるか連れて行ってくれなければ、食べられない。  君は朝食をとるようになり、私の昼食のついでにお弁当を作るようになり、夜は家で食事ができるくらいの時間には帰ってくるようになった。  晩酌に私が付き合う度に君が涙ぐむ癖は治らなかったな。私は1人でお酒を飲むことがないからよく分からないが、スーパーで買ったお惣菜と発泡酒が乗るちゃぶ台を囲むのは、そんなに楽しいものなのか。そうか、そういうものならそれでいい。  着てきたジャージしかなかった私に服も買ってくれた。  そういうことを望まないお客様の場合は自分で用意するんだが、君は楽しそうだったな。自分1人では入れない場所を知ることができるからとも言っていた。  スカートよりもパンツルックが好きだと白状した時は真っ赤になっていたなぁ。だいたい、私は背格好も君好みになっているんだ。その時点で君の好みはバレているというのに。  あちこち連れて行ってくれた。  本も貸してくれたし、ゲームも教えてくれた。  でも、残念ながら君は勘がいい方だった。
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