飼われ屋さん

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 まあ、一緒に行った店の従業員からはじまって、一緒に会ったはずの人たちが、ことごとく私のことを覚えていないわけだ。  勘違いだと思い込もうとしても、何かがおかしいと気付いてしまった君の目は、もう前と同じようには世界を映せない。  何にでもスマホのカメラを向ける時代になってしまったのも良くない。  君たちはもっと、脳に直に繋がっているその目で感じるものを楽しんだ方がいいと思うぞ。  昔は、気が付かないまま一生、私たちのようなものと添い遂げる人すらいたそうだが……今では難しいだろうな。  さて、君が察している通り……化かされていることに気付いてしまった君の意識が、気付く前の状態に戻ることはもうない。今はまだ記憶やら願望やらが押し留めているだろうが、すぐに私のこの姿——君が私に望む姿は、見えなくなるだろう。  やがて君の目に映るのは、私の本当の姿になってしまう。  そうなる前に、お別れだ。  泣いてもダメだぞ。  私の世話をできるのは、契約が続く限りだ。もうこれで契約は更新しない。君が何と言おうが、こちらに契約の意思がないのだから、成立しないんだ。  ……ダメだ。私は、君にとっての理想の姿を見せて気に入られておいて、本来の姿でも世話をしてもらおう、などというためにこの仕事をしているのではないんだから。  それにな、私は「君を化かしていた」のだ。私の方がこの姿を創ってきたわけではない。化かされている君には私がこう見えたということだ。
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