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十二 月光 -2
「ぬがああっ!」
その時になってやっと俺の動きに追いついた大猿が振り向き、大太刀を振るって来た。
俺は後ろに跳び退って逃れ、奪い取った大猿の左腕を剣のように構えた。
「へへっ、さあどうする」
「犬神よ、貴様もとうとう本性を現したな。ぐふふ、面白い」
「そろそろ決着と行こうぜ。
片腕じゃ恰好悪いだろう。もう片っ方と、ついでに首も刈り取ってやるから、そこで大人しくしてな」
「ぐはは、何を言うか。儂の片腕なら、ホレそこにあるではないか」
その言葉が終わらぬ内に、俺が持っている猿の腕がぐいと向きを変え、俺の顔めがけて襲い掛かってきた。
「うおっ!」
慌てて放り出すも、その腕は宙に留まったまま、再び俺に向かってくる。
「くっ」
火鏢で斬り付けようとすると、腕は小馬鹿にするようにヒョイと躱して地球王の所へ飛んで帰り、綺麗に肩口にくっ付いちまった。
くそっ、やっぱりただ斬っただけじゃあどうにもならねえのか。
だったら……。
全身の気を奮い立たせ、火鏢に光を纏わせる。これならちょっとは効くだろう。
「む……」
それを見た地球王も、油断なく大太刀を構える。
野郎は俺よりも上流側。その背中の遥か彼方には、橙色に燃え上がる山々が見えていた。
どうやら龍神を食い止めるのは仕挫ったようだが、ここでこいつを止めねえと、また何処かで悪さをしやがるに決まってる。
「さあ、行くぜ」
再び突攻を仕掛ける!
大猿は右手で大太刀を振り翳し、左手で前を塞ぐ構えを取った。
左腕は山頂でやった傷が癒えてはおらず、動きは鈍そうだ。あの大太刀さえ上手く捌けば、勝機はある。
俺は躊躇なく正面から突っ込んで行き、大太刀が振り下ろされるより速くその懐に飛び込んだ。そして左手で大猿の右腕を抑えつつ右の鏢を突き出し、野郎の左肩を再び狙った。
だが大猿は寸前で大きく跳び上がり、俺の頭を越えようとする。
思わず上を見上げたその顔面を、大猿の右足がガツッと掴んだ。
「ぐあっ!」
くそっ、流石は猿! 足まで器用に使いやがるか!
すかさず鏢で斬り付けようとした俺の背中に、上から大太刀が襲い掛かる。
俺は鏢で猿の脚を斬り付け、無理矢理体を捻って斬撃を避けようとしたが、逃れ切れず腰を大きく裂かれちまった。
「がっ……」
地面を転がり、距離を取る。
大猿は追撃を掛けて来ようとはせず、余裕の構えで俺を見降ろした。
「ぬはは、どうした。そんな事では本性を顕した甲斐がないぞ」
「野郎……」
腰の傷は深かったが、血はすぐに止まった。
マリモの血じゃねえ、これは犬神の力だ。と言うか、単に体が頑丈で傷の癒りが早いってだけだが。
だがこれなら、ちょっとくらいは無茶が出来るってことさ。
ようし、もう一丁。
息を吐きながら立ち上がり、再び地面を蹴ろうとした、その時だった。
地球王の背後で、山塊が緩やかに沸騰を始めた。
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