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十三 金幕 -2
「くそ……。今度こそ、これまでか」
諦めかけた、その時だった。
村に程近い麓の一角から、突然火柱が上がった。
「なにっ!」
その火柱は渦を巻きながら天空まで一気に伸び上がると、光の津波の前に立ちふさがるように、大量の火の粉を撒き散らせながら聳え立つ。
あの場所は確か……。
そうだ、あれは火なんかじゃねえ。力任せとも言える圧倒的な輝きで闇を押し退け、辺りを昼間のように煌々と照らし出す、あの金色の光は!
蓬子か!!
驚愕に眼を剥く俺の前で、その光の柱は幕を張るように、横に大きく広がり始めた。
あの本堂の中で見た光の靄にも似た、仄かな煌めき。金色の薄幕が、村と山を隔てるように広がって行く。
もしやあれで龍神の山津波を遮ろうというのか。だが果たして、あんな物で防ぎ切れるか。
そんな俺の心配を余所に、金色の薄幕は更に広がって行く。
どこまでも、どこまでも……。あっと言う間に地平の彼方から彼方まで伸びて行き、端が見えなくなっちまった。
まさか、この山塊全部を囲っちまうつもりか?!
俺の脳裏に、昨夜の撫子の言葉が過る。
『首尾よく我らが地球王を倒せば、それで良し。
じゃが万が一それを果たせず龍神が暴れ出す事態となった時には、これに対抗できるのは蓬子だけじゃ』
あいつ、本気で龍神とやり合おうってのか……。
そして遂に、橙色の怒涛と金色の幕が激突した。
薄幕を通して、向こう側の様子もよく見える。
山津波は、幕に達すると硝子の壁にぶち当たったように大きく撥ね返り、激しく乱れ狂った。
薄膜はその華奢な見た目とは裏腹に、山をも越える怒涛に襲われてもビクともせず、里を目前に、金と橙の入り混じった光の絶壁を形作る。
どうやら山津波は光の薄幕を越えることは出来ねえようだが、その代わり壁の内側で嵐の海のように激しく波打ち、大量の飛沫を飛ばした。
その内の幾つかは遂に壁を越えてしまい、こちら側に降り注いだ。
遠目には小さな飛沫程度と思われたが、そいつは地に落ちると大音響を響かせて炸裂し、野や畑に大穴を開けたうえ、広範囲に炎を撒き散らした。
ちくしょう、やっぱりあれは溶けた岩じゃねえか!
しかも元がデカすぎるから感覚がおかしくなっちまっているが、あれ一粒が家の二・三軒分はある。
雫の一滴でさえあの威力。これであの山津波が丸ごと押し寄せてきたら、ここら一体、いや国の半分が火の海に沈む。
俺は思わず地球王を睨み付けた。
このクソ猿め、何が不二の山だ。それどころの騒ぎじゃねえだろ、この大馬鹿野郎が。
だが立ち塞がる金色の壁は、膨大な量の光の波に押されながらも、微塵の動揺も見せちゃいねえ。
薄膜どころか、十里四方にも及ぶ広大な土地を丸ごと囲い込み、煮え滾る岩と龍を封じて漏らさぬ巨大な鉄鍋と化していた。
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