十五 決着 -2

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  十五 決着 -2

 龍神が少しずつその身を光の海の中へと沈め、金色の巨人もまた空を仰いだまま、次第にその姿が薄れていく。  そして更に、光の津波までもが静々と山の奥へと引き始めた。  風も止み、ずっと鳴り響いていた地鳴りも静まる。  野山に、忘れかけていた夜の静寂が戻ろうとしていた。  あいつら、とうとうやりやがったか……。  俺は遠くの空に浮かぶ薄紅色の雲を見上げながら、息を吐いた。  最後に、神の暴威から人里を守り抜いた金色の薄膜も、大気に溶け込むように消え去って行く。  全てが去った後、そこに残されていたのは、光の波の下敷きとなり金色の壁の内側に押し込められていた、大量の土と瓦礫と、そして水。  その壁が無くなった今、積み重なった土砂は自身の重さを支えきれずに、一気に崩れ落ちる。  そして本物の山津波となって、野に押し寄せ始めた! 「ちくしょうあの馬鹿娘め! 最後の最後でやらかしやがった!」  目の前に巨大な土の波が迫る。  寝呆けてる場合じゃねえ! くそっ、今度こそ逃げられねえ! 「ぬおっ!」  地球王も眼を覚まし、押し寄せる脅威に慌てて背を向けた。  その時の俺に、深い考えがあった訳じゃねえ。気付いたら身体が勝手に動いていた。  俺は地球王が後ろを向いたのを見た瞬間に、その背中に飛び掛かった。 「ぬがあっ!」  気配を察した地球王が大太刀を振るい、火鏢の一撃を食い止める。 「愚か者! こんな事をしておる場合か!」 「うるせえっ! 大人しくくたばりやがれっ!」  そうだ、ここで逃がしたら終いだ。  例え山津波の下敷きになったとしても、不死身のこいつは平然と生き返りかねねえ。そうなったらまた同じことの繰り返しだ。  命に代えても、今ここで始末を付ける!  俺は地球王の顔めがけて火鏢を投げ付け、奴が太刀でそれを弾いた隙に、懐から柄だけになった聖剣を取り出した。 「ぐはは、血迷ったか。今更そんなもので何をしようと……。っっ!」  大猿の嘲笑に耳を貸さず、真正面から踏み込む。  そして右手を大きく振りかぶり、全身の気を滾らせ足先から胴肩腕へと体中の光を一気に流し込み、その先にあるただ一点、固く握りしめた拳の中心へと全てを集中させる。  その瞬間、身体を包んでいた結界は全て消え去り、代わりに柄の先の何もない空間に、銀色に輝く光の刃が姿を現した!  今の俺だからこそやれる、マリモが見せてくれたあの技だ!  無防備になった俺の腹を、地球王が突き出した大太刀が貫いた。  だが構うもんか! 俺は腹に力を込め、背中まで突き抜けたその刃を己の体で抑え込んだ。  地球王が慌てて引き抜こうとするが、犬神の強靭な筋肉でがっしりと咥えてそれを許さず、俺はニヤリと笑いながら、別れの言葉を告げた。 「あばよ、次は地獄で会おうぜ」 「ま、待て」 「やなこった」  月光一閃!  猿野郎の首を斬り飛ばす!  斬撃を受けた首が、ゆっくりと宙に舞う。  その顔は満面に驚愕を湛え、大きく開いた口で何かを叫ぼうとしている。  切り離された胴体が見る見る黒ずんで行き、土くれの如く崩れ去る。  見開かれた両眼を間近に見据え、その中央に光剣を突き立てると、そこから顔全体にひび割れが走った。  蒼眼が光を失い、大太刀と共に粉々に砕け散っていくのを確かに見届けた。  その直後……。  真っ黒い怒涛が俺達の上にのし掛かり、全てを押し流して行った。
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