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終章 涅槃 -3
二里……、そんなに流されたのか。
それにしても撫子の奴め、こんな餓鬼一人に……。
「そういやお前、歳は幾つだ」
「とおじゃが、それがどうかしたか?」
十だと?
「あいつ、そんな餓鬼を一人残して行っちまったのか。なんて無責任な奴だ」
「愚か者が、歳など関係あるか。現に我一人で泥に埋もれたぬしを見つけ出して、こうして助けておるではないか。
無責任などではない、撫子姉さまは出来ぬことは言わぬのじゃ。
姉さまがやれと言われたからには、我には出来るということじゃ」
くそ、言い返せねえ。
「それでお前、俺を助けた後はどうするんだ。撫子の後を追うのか?」
「暫くは、ぬしに付いてやれとの仰せじゃ」
「へっ、そりゃ世話になるな」
「うむ。ヘタレで間抜けで意気地なしの野良犬小僧がまた勝手に死に急いだりせぬよう、近くで見張っておれということじゃ。
いずれまた相見える日まで、ぬしと共に過ごせとな」
「そりゃ大きなお世話だな!
んで? いずれっていつだよ」
「さあ? 三日後か十年後か」
「なにい?!」
何考えてんだ、あいつ。いや、こいつもだ!
「さてと、おしゃべりはこれくらいにして続きじゃ」
ちょっと待て、と口に出す間も与えず、蓬子はまた俺に唇を押し付けてきた。
「む……」
その柔らかな心地よい感触に思わず目を閉じてしまいそうになったその時、蓬子が俺の股ぐらを掴んだ。
しかも今度は玉じゃなく、竿の方だ!
俺は強引に口を離して叫んだ。
「ぶはっ! お、お前なにしてんだ!」
「何をそんなに慌てておる。心配せずとも、もう握り潰したりはせぬぞ」
「そんなこと言ってんじゃねえ! どこ触ってんだこのやろう!」
「撫子姉さまが言われたのじゃ、男の元気はまず一物からじゃとな。じゃから体の具合を確かめるにはこれが一番なのじゃ」
そう言って蓬子はまたニッコリと笑った。くそ、こんな無邪気な笑顔を見せやがって。
「なれば、ここが元気になるまでたっぷりと命を注いでやろうて。判ったら大人しくせい」
「あの色狂い女め、餓鬼になんてこと教えてやがるんだ。
お前もこんな、むむっ!」
蓬子は俺のモノを握り締めたまま、無理やり口を塞いだ。
その上あろうことか、舌まで入れてきやがった。
「ん……んふ……、ん……」
柔らかい肉先が俺の舌を捕らえ、根元からゆっくりとねぶり回す。
触れ合った箇所から何か熱いものが俺の中に流れ込んできて、体全体に沁み渡っていくのが感じられた。
これが、命を注ぐってことなのか。
この世のものと思えねえ程の快感に、意識が遠のいてゆく。
冗談じゃねえ、この俺がこんな餓鬼っ娘なんかに……。
くそっ……。
閉じた瞼の向こうに、撫子のニヤニヤ笑いが見えたような気がした。
(狼よ、我が夫よ。
己が子の顔を見るまでは、死ぬことは許さぬぞ。その日が来るまで蓬子と仲良う暮らせ。
よいか、泣かすなよ)
うるせえこのくそアマ、泣きてえのは俺の方だ!
てめえ今度会ったらただじゃ置かねえ! 憶えてろよ!
けど……。
まあ……。
いっか……。
…………。
……。
-完-
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