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 真っ暗な日常に埋もれる自分の目の前に小さな光が輝いている。手を伸ばせば届きそうだが、体が動こうとしない。その光は世界中の光を集めたのかと思うほど明るかった。  僕はふと思った。この先に幸せがあると。そう思うと体が自然と動いた。光は僕が失った大切なものだ。それを取り戻すためなら、死んでも構わない。遠くから誰かが叫ぶ声が聞こえる。それは力強く、目の前の煌々とした光でさえもその声に怯えていた。 「橘君、ダメだよ、そんなこと言わないで!」  大きな声が聞こえた。目を開けると、目の前に玉井さんがいた。なぜか玉井さんは涙を眼に溜めていた。水たまりのように瞳が輝いている。僕は訳も分からず、ただその瞳を見つめ続けた。 「早く死にたいなんて言わないでよ」 彼女の声は涙に濡れていた。 「どういうこと?」 「橘君、辛そうに唸りながらそう言ってた…」 僕はその言葉に、先ほどの光を思い出す。あれのためなら死んでもいい、むしろ死んであの光のもとに行きたいと思っていたのは夢に浮いている自分だった。 「だめだよ、そんなこと言ったら」 彼女は必死に涙を拭った。その姿に胸が痛んだ。死にたい、と思ったのがさっきの夢の中だけではなかったから余計痛かった。  今日まで何度もそう思ってきた。死ねば簡単に幸せになれるかもしれないのに、どうして多くの人はそれを試さないのだろうと、何度も思い続けてきた。  それを口にしたとき、涙を流してくれる玉井さんはやっぱり素敵だった。 「ごめん」 僕はそう一言呟いた。玉井さんは僕の方をじっと見たまま何も言わなかった。  玉井さんが立ちあがり、キッチンに向かった。部屋に戻ってきた彼女はお椀を手にしていた。湯気が立ち込めるそのお椀からは生姜の香りがゆらゆらと立ち込めていた。 「これ、生姜スープ。ネギ忘れちゃったから味気ないかもだけど、生姜は風邪に効くから飲んで」 彼女はお椀をローテーブルに置くとそう言った。彼女の声は涙に濡れて湿った地面のように重苦しく、澱んでいた。  僕はスープを一口すすった。生姜の香りが程よく鼻をつつく。食道から胃へと熱い液体が伝っていくのがわかる。薄味が体全身に染みわたっていく。玉井さんは僕の顔をじっと見つめていた。 「美味しい」 僕がそう言うと、彼女の顔がぱっと明るくなった。涙の痕が残る彼女の笑顔はどこか幼く見えた。 「やったあ。どんどん飲んでね。」 彼女のホクホクとした肌が、きれいに輝いている。僕は終始彼女に見つめられたまま、スープを飲み続けた。    
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