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 僕たちは数分歩いた後、目的地のカフェに着いた。雑誌に載るほど有名だというそのカフェには長蛇の列ができていた。 「すごい列だね。」 僕がそう言うと、玉井さんは茫然としたまま何度も頷いた。 「予想以上だった。」 「とりあえず並ぶ?」  玉井さんは険しい表情で、列を見つめている。僕の声は彼女の耳には届いていないようだった。 「駅前のカフェにしようか。どう?」 「良いよ。さすがにこれだけの列に並ぶのはきついよね。」  僕がそう言うと、彼女は苦笑いをして頷いた。玉井さんは意外と並ぶのが嫌いなことを知った。また一つ彼女のことを知れて少しうれしかった。  僕たちは駅に戻り、すぐ近くにある有名チェーン店のカフェに入った。 「やっぱり、安定だよね。」 玉井さんが言った。カフェなど滅多に行ったことなかったがとりあえず頷いた。 「何頼む?」 「僕はコーヒーかな。」 「食べ物は?」 「うーん、無しでいいかな。」 「ええ、コーヒーだけじゃ寂しくない?」 「そうかなあ、じゃあ、何か…」 「この大きいパンケーキ半分こしよ!」  玉井さんがメニューにあるパンケーキを指しながら弾ける笑顔で言った。席に着いてすぐに始まったこの会話に、心の奥がかゆくなった。  こんな風に女性と会話するのは初めてだった。目のやりどころや、受け答えにすごく困る。僕はコーヒー、玉井さんはアイスティー、そしてパンケーキを一つ、頼んだ。  少しして、ドリンクとパンケーキが届いた。ベリーの甘い匂いが鼻にまとわりつく。 「思ってたより小さいね。」 玉井さんが小さな声で言った。その少し残念そうな表情に、僕の顔までゆがんだ気がした。 「玉井さん、全部食べてもいいからね。」 彼女の萎んだ表情を元に戻すため、僕がそう言うと、彼女は大きく首を振った。 「だめだよ。橘君も食べて。」  彼女はナイフを使ってパンケーキを半分に切り分け始めた。パンケーキの上のソフトクリームが皿の上に倒れた。 「あ。」  僕と玉井さんは同時に声を上げた。お互いの視線がぶつかり合い、彼女はニコッと微笑んだ。その笑顔にドキッとする。彼女は倒れたソフトクリームを丁寧に掬い上げた。彼女の一つ一つの動作を見るたびに、体がビニール袋のように宙に浮いているような感覚が何度も何度も襲った。
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