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「今日はありがとう」
玉井さんは、外の寒い空気に触れるとすぐに頬を紅潮させていた。マフラーにうずくまる顎とマフラーにちょこんと触れるボブヘアーが冬の背景に馴染んでいた。
「こちらこそありがとう」
僕は白い息とともにそっと言葉を吐いた。昼間の雪はほとんど溶けて、アスファルトに小さな水たまりを作っていた。
玉井さんの顔を見ながら、僕は何か物足りなさを感じていた。何かもっと言わなければならないことがあるような気がした。駅まで歩きながら、胸のくすぶりを必死に抑えた。
もう少しで駅についてしまう。僕はそう何度も心で呟いた。玉井さんは鼻歌を歌いながら楽しそうに歩いている。僕は高鳴る心臓の音をしっかりと聞きながら、精一杯冷たい息を吸った。
「あのさ」
僕の声は寒さに凍えることなく、玉井さんに届いた。彼女は怪訝な顔つきで僕を見た。
「また会えるよね」
心臓の拍動が最高潮にまで達した。玉井さんはぽかんとした表情を僕に見せた。
「明後日バイトで会うじゃん」
彼女はマフラーで声を曇らせながらそう言った。首筋が熱くなり、服の中に熱がこもっていくのが分かった。
彼女の無邪気な笑顔が重苦しい空に浮いている。僕の言葉は凍らず届いたが、気持ちはすぐに凍って彼女の前では割れて粉々になったようだった。僕は笑って「そうだった」と呟いた。
銀色の空は薄暗く、寂しさを漂わせていた。
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