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   目を覚ますと、カーテンの隙間から弱弱しい光が差し込んでいた。ベットの上の時計の針は六時五十分を指していた。つまり今は七時二十分。この時計は三十分ずれている。  昨日の記憶が頭の中で煙のように舞っている。横になってからの記憶はない。きっとあのまま眠ってしまったのだろう。寝すぎたからか、体が頗る重い。ジーンズのポケットに入れっぱなしの携帯を取り出す。メッセージが一件入っていた。 『カレーちゃんと食べて感想教えてね!』  村本さんからのメッセージだった。彼女の朗らかな声が聞こえてくるような気がした。僕は急いでベットから立ち上がり電気をつけ、袋からカレーを取り出した。スーパーに売っている安いものとは明らかに重厚感が違った。  鍋にお湯を沸かし、パウチを入れる。こぽこぽと沸騰する音が、朝の寝ぼけた脳にやけに沁みた。コンロの火と沸騰したお湯は決して休むことなくカレーを温め続けた。この後、火は消され、お湯は捨てられるのに、どうしてここまで健気に頑張ることができるのか聞いてみたくなった。  パウチを取り出し、お椀の中にカレーを流しいれた。湯気と共に、スパイスのとげとげしい匂いが立ち込め、鼻を突く。朝にこんな重いものを食べたくないという気持ちに、村本さんを悲しませたくないという思いが勝った。けれど、スプーンを用意して五分間、お椀の中のカレーをじっと見つめ続けることになってしまった。  やっとの思いで少し冷めたカレーを一口頬張った。正直、レトルトらしい味はするが、美味しかった。野菜の甘みが引き立っているのが気に入った。ただ、起きたばかりの胃にはやっぱりきつかった。 『とても美味しかったです。ありがとうございます』  僕はすぐにメッセージを送信した。ちゃんとした感想は会った時に言うことにした。  重くなったお腹を押さえながら、僕はテレビをつけた。朝の情報番組の占いがちょうど画面に映った。しし座の運勢は三位。「素敵な人に出会えるかも」「ラッキーカラーは緑」と書かれていた。素敵な人、と心の中で呟いてみる。  僕にとっての素敵な人はどんな人だろう。村本さんのように優しい人だろうか。それとも梓ちゃんのような天真爛漫な子だろうか。  二人の像を思い浮かべ、どちらも素敵だ、と再び心の中でつぶやいた。そこで我に返り、どんな人に会えるだろうと少しでも思っていた自分が恥ずかしくなった。僕はすかさずテレビを切った。  
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