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 八時間の勤務が終わり、僕は村本さんからもらったレトルトカレーの入った袋をぶら下げながら、薄暗い道路を独りで歩いた。    近くの駅から、学校帰りの中高生が溢れている。彼らは僕には目もくれず、薄暗い空間を照らすように華やかに往来していった。その中をひっそりと歩く自分が情けなく思えた。    アパートに着き、中に入ると、今朝食べたトーストの香りがほのかに残っていた。バイトに行く前の意気揚々とした自分の残像がすぐそこにある気がした。  そして、真っ暗な部屋で、僕の心臓は急激に拍動を増す。得体のしれない大きな不安に襲われ、押しつぶされそうになる。眉間が痛くなるほどの涙が溢れ頬を伝い、バカみたいにくしゃくしゃな顔になった。  あの明るく温かい空間から、この暗く冷たい空間に戻った時、自分の置かれた境遇をはっきりと理解し、心臓が爆発しそうな痛みを味わう。暗い部屋で独り、ああ、自分は独りだ、と嘆き、涙を流す。そんな情緒不安定な毎日を送っていた。  そしてこの苦しみを誰にも話すことができない弱さが追い打ちをかけてくるのだった。  あの空間や村本さんをはじめとするバイトのメンバーは僕にとって一種の麻薬のようなものだった。  一時的な幸福を味わうためのクスリ。効果が切れると、副作用でさらに酷い虚無感に襲われ、再び欲するようになる。中毒になった僕は、そのサイクルから抜け出せずにいた。  それを手放した時、僕に訪れるのは悲惨な絶望かもしくは無残な死であるような気がした。その恐怖に毎日頭を抱えた。  暗い部屋に自分の嗚咽が響く。横になったベッドに、涙が沁み込み、黒いしみになる。いっそこのままこの大きくなるシミに飲み込まれてしまいたいと小さく願い、眼を閉じた。
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