言の葉の樹の

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「バケモノの定義?」 およそ、ヒトの半分程はありそうな体躯の(ふくろう)金糸雀色(カナリアいろ)の眼を丸く光らせ、言葉を発する。 「そうだ。君にとってのバケモノとは?」 一見、ヒトと変わらぬ姿形の女が言う。 だが側頭部からは、山羊のそれとよく似た角が 下方向に向かって大きな弧を描いている。 暗く、青く、静かな夜の。林檎の樹の上で。 『ヒトならざる』 ふたりが互いを見やる。 風が小さくざわめき(かたわ)らの小枝を揺らすと 梟はその先端に掛かかっているティーカップを 羽根先で軽く押さえながら、論じ始める。 「殺意が定かでない者…ですかね。」 「定かでない?」 「ええ。明確な殺意をもって相手の命を奪うのなら それはただの『捕食または生存競争によるもの』でしょう。 最も原始に近い生物の我々だけでなく リズベル、貴方の様な魔の者であっても ヒトであってもそれはどの種族も同じなはず。」 「そうだな。捕食無しに生きる生物は存在しない。 まぁ植物だけは微妙な立ち位置だが…。」 「奪う理由は、純粋に空腹を満たす為だけで無く 快適そうな住処(すみか)を手に入れる為でも 縄張りの拡大でも、狩の練習でも何でも良い。 相手の意思とは何ら関係の無い一方的な殺戮(さつりく)。 それは自分自身の生存を優位に保つ為の行為。 その行為自体は、すべての生物が行っている。でしょう?」 梟は威厳(いげん)に満ち溢れた表情で淡々と述べる。 「あぁ。人間だけはそこに善と悪という無意味な概念を 付け足したがるが…戯れ言でしか無いな。」 憫笑(びんしょう)するリズベルに、深く頷く梟。
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