言の葉の樹の

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「まったくもって。 故に、私は強者が行う殺戮行為に基づいて バケモノ呼ばわりする傾向は()に落ちません。 ヒトが一番使いたがるシーンですが。」 「奴らは自分達が生きる為の殺戮は仕方無しとし 他の生物に牙を向かれると、そう呼びだすからな。 領域を護ろうとする神獣達が暴れる時など特に。」 「そうです。むしろどんな動機であろうと何の意思疎通も無く 攻撃を仕掛けてきた場合、それはただの『敵』であり こちらが取るべき行動も最初から決まっているぶん話は早いのです。 迎え撃つか、退()くか。常にこの2つしか選択肢はありません。 ならば、真に恐れるべきは何か。 攻撃の意思は無いかのように振舞いながら 後ろ手に凶器を隠し持つ者…だと私は考えます。」 「確かに。真意の見えぬ(やから)は厄介だ。 笑顔の裏に何があるか判ったもんじゃない。」 「見極めるのに時間を要し経験も勘も必要です。 一筋縄ではいきません。」 「だが殺意自体は不明なんだろう?」 「ええ。意図的に隠している場合もありますからね。 その疑いを持って熟察せねばならないという時点で 単純な敵よりも難儀する事になります。」 「しかしだ。まだ敵か味方か判らぬ程度なら もしかしたらこちら側に着く可能性もあるだろう? その程度の存在を恐れると言うのか?」 「如何にも。そこです。そこが(かなめ)なのですよ。 どちらに化けるか判らないからこそ 『化け物』 なのです。」 言葉の結びと同時に、両の翼を左右に大きく広げてみせるその仕草は いやに誇らしげでリズベルになんとも言えない笑いを誘った。 「……なるほど。さすが ¨賢者¨ か、オズ。」 フフッ、とリズベルが笑って肩を揺らすと 満足気にオズの真ん丸の眼も弓型に細くなる。 「これだから君との夜会はやめられないよ。」 右手の人差し指を空に向け、頭上でくるくると楽しそうに ティーカップを廻すリズベルに対してオズは感慨深げな眼差しを向ける。 「私の方こそ、貴方には救われていますよ。」 「何をだ?」 不意を突かれきょとんとするリズベルとオズの間に ザアッと生暖かな風が流れ月灯りが差し込む。
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