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1 Makoto
最初に遊さんと出会ったのは、叔父である貴ちゃんの経営するバー『Lampo』のバイト面接にきていて、採用することが決まった直後だったと思う。
第一印象は綺麗な顔立ちをしたひと。けれど、ふーんって感じだった。
学校に少数だけ生息しているイケメン男子。でもよくよく観察してみると妙に甘い笑顔や、時間をかけてセットした髪型をいつでも気にする仕草に、げんなりしてしまった。ちょっとカッコイイからといって、すぐに恋愛感情に結びつかなくなったのは、彼らのせいかもしれない。
ただ。遊さんは彼らとは違った。
あまりしゃべりもしないし、むしろ素っ気ないから少し感じが悪い。自意識過剰な男子よりはいいけれど、やっぱりなんの感情もわかなかった。
でもあの時。貴ちゃんが私を客にみたてて、アイスティーを出してみろって遊さんに言い出して。
氷がはいったグラスに注がれたアイスティーがすっと出された手もと。少し節のある指先から、ゆっくりと遊さんの顔に視線を移したときだった。前髪から覗いてみえた瞳と、かちんと視線が合ったあの瞬間、背中が震えてしまうほどの衝撃をうけた。
とてつもなく澄んでいるのに、どこか切なげな色が滲んでいる瞳。それがまっすぐ、わたしに突き刺さった。耳の奥まで、血流の音が響いてきて、遊さんにも聞こえてしまうのではないかと、焦ってしまうほど。頬も真っ赤になっていたかもしれない。
慌てて飲んだアイスティーに咳き込んで、終いには吹いてしまい、貴ちゃんがゲラゲラ笑っていても怒る気にもなれなかった。
感情のコントロールができなくなってしまうほど気持ちをもっていかれてしまうなんて。いつもはもっとうまくできるはずなのに。
そう思いながらも、あのときから、私の世界が色を帯び始めるのを感じていた。
目は勝手に遊さんを追いかける。
彼は私をあまり見てくれない。たまに目が合っても儀礼的に微笑むだけで、無造作に逸らされしまう。だから目がちゃんと合ったのは、最初のあのときだけ。
遊さんを見つめるたびに、切実な願いが濾過されて、純度の高い結晶になっていく。
いつもどこか冷めた笑みを浮かべている、この人の本当の笑顔がみたい。
私は、私と賭けをする。
もし彼の本当の笑顔が見れたのなら。この息苦しい世界から、抜け出せる。
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