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2 You
「なに?」
ため息をつきそうになるのを何とか堪えて、とってつけた笑顔を浮かべてみせる。
俺の人間関係なんて、基本昔から受け身だ。自分から関係を作ろうと動いたことなんかないし、動きたいとも思わない。それでも十分事足りてきたし、むしろ釣りがくるくらいだ。
ただ。今いるのは学校の教室じゃない。ここは仕事場のBAR。昔よりは多少の社会性は身に着けたつもりだし、少しは愛想よくしなきゃ、仕事をやめさせられてしまう。しかも厄介なことに、目のまえにいる女は、客よりは気を遣わなくていいものの、あまり雑に扱うこともできない。彼女は、まっすぐこっちを見て笑った。
「ちょっと話そうよ、遊さん」
カウンター越しにじっと俺を見つめる大きな瞳。サラサラなほんの少し茶色の髪。無邪気な笑み。
薄暗い、どこか気怠いこの空間で、微妙に彼女のまわりだけ雰囲気が違う。春の日差しみたいな明るさ。それが俺を落ち着かなくさせる。
「仕事中だから、ムリ」
邪険にはならない程度にあっさりと答える。ただ、いつもこの調子であしらっているから、慣れてしまったらしい。俺の塩対応なんて先刻承知だ、といわんばかりににこっと笑う。
「今お客さんも少ないし、少しくらい、いいでしょ?」
その打たれ強さに、軽くイラついてしまう。
「客とか関係ないから」
つい、少しきつい口調でいってしまう。流石に、戸惑うように彼女の肩が揺れた。客商売で鍛えた条件反射、空気が凍り付く前のタイミングでニッコリ笑う。
「お客様、もう9時半になります。高校生はおかえり下さい」
ほんの少し、力が抜けたみたいな顔。ホッとしたように小さく笑って、負けん気が微かにのぞく瞳で俺を見上げてくる。
「……自分だって未成年のくせに」
変に明るい笑顔よりも、こういう年相応な拗ねた表情の方が余程落ち着く。つい苦笑が漏れた。
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