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「あのね、俺はハタチ超えてるから」
「エラそうにしてるけど、ほとんど変わらないよ」
まっすぐにみつめてくる瞳。それが衒いもなくこちらに向けられていて、つい目を逸らしてしまう。やっぱりこいつは苦手だ。
「高校生は、こんなところなんて来てないで、勉強しろ」
「週に1回、ここにくるのが唯一の息抜きだもん。今日だって塾に行った帰りに寄ったんだから。ちゃんと勉強してます」
洗いあがったグラスを棚にしまおうと背をむけたら、後ろから拗ねたような声が追いかけてきた。服はちょっと大人っぽいワンピースなんか着ているけれど、ムキになっている様子は、高校生そのものだ。つい苦笑が零れる。
「遊、あんまり冷たくしないでやって。真琴はおれの可愛い姪っ子なんだから」
店のオーナーであり俺の雇い主である貴大さんが、横にきて笑う。
「貴大さんがいけないんですよ。いくら姪だからって高校生をバーに来させちゃいけないでしょ」
彼は困ったように首をすくめた。
「まあまあ、そう言わずに。俺がちゃんと見張っているならって兄貴には許可もらってるんだから、さ」
そういって軽くウィンクをしてみせる。普通だったらオッサンにウィンクなんかされたら気色悪いことこの上ないが、貴大さんがすると全く違和感がない。子供みたいな雰囲気と大人の雰囲気がまじりあった、不思議な色気があるひとだ。
40になったばかりというけれど、とてもそうはみえない。歳をとるのを忘れてしまったみたいだといつも思う。だから店のオーナーだということを忘れて、気安くついタメ口をきいてしまいそうになる。
貴大さんの兄、つまり真琴の父親は全く違うタイプに見えた。貴大さんより7つも年上だという、見るからに真面目そうな会社員。たまにここに顔をだして、嫌がる真琴を引っ張って早々にかえっていく。あれは積極的に、真琴がココにくることを許可しているようにはみえない。
「まあ、でも9時半過ぎたからな。もう帰らないと兄貴にどやされる」
貴大さんはチラリと手元の腕時計に視線を落としたあと、俺に笑いかけた。
「遊、悪いけどさ、真琴を駅まで送ってきてくれないかな。今日は客が少ないし」
「え? 俺が、ですか?」
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