紀ノ国坂のめんどうなバケモノ

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「じゃあ、またね!」 「またね!おねえさんのこと忘れないよ。おねえさんのカバンにつけてるチャーム覚えとくから」  ようやくめんどいソクラテス、ちびプラトン、またはウザい一休さんから解放される。 「あ。これね。可愛いでしょ。ディズニーランドで買ったの」 「何ていうキャラクターなの?」 「知らないの?これ、サリーとマイク」 「何のアニメに出てくるの?」 「モンスターズインク!」 「え?なに?」 「モンスターズ・・・(あ、やばっ!)」 「『Monster』って英語でなんて意味なの?」  こいつ絶対英語しゃべれる!  発音からして[mˈɔnstə]・・・バリバリのロイヤルイングリッシュだ。絶対にチャームも気づいていたはず!ワナだ、謀られた! 「あ〜、何だっけ?忘れちゃった〜」 「『怪物』?『バケモノ』?」 「あれ〜そうだっけ?」 「おねえさん、本当はバケモノが怖くないんだね?むしろ可愛いんだね?ぼくのことも可愛いって言ってたよね?じゃあ、ぼくがバケモノじゃないって言えるのかな?」 「あわわ・・・」  しまった、しくじったわ。  男の子は道端にしゃがみこんで、泣き始める。 「ぼくはバケモノなんだ!バケモノって言われた!うえ〜ん!うえ〜ん!」  言ってないし!  ああ、ダ・カーポ、ふり出しに戻る・・・。 「あ、もうこんな時間!講義があるから、おねえさん行くね」  男の子を残し、紀ノ国坂を早足で下る、いや逃げる。振り返ると、J大生とおぼしき女子が男の子に声をかけている。次なる犠牲者、祭壇の子羊、スケープゴート。男の子は私を指差して女子大生に何か話している。私は首を横にブンブン振って、全力で紀ノ国坂を駆け下りた。  いったい何人の犠牲者が出るのだろう、あのバケモノの・・・。
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