いやいや、本物じゃないし。

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いやいや、本物じゃないし。

 ははっ  最初は母を驚かせるために始めたんだよ。  だって、仕事から帰ってきても目も合わさず「疲れた疲れた」って言うからさー。  シーツかぶってオバケだぞー ってやったら、母ちゃん、ぎゃーって言って。シーツから顔を出したら、わぁ驚いた、たあくんだったんだねってギュッてしてくれたんだ。  だから俺、いろいろ考えて。っても、ほら、子どもだからさ。段ボールかぶったり鍋かぶったりとか、ま、そんなもんだけど。  母ちゃんは、「ぎゃー バケモノー!」って言って、俺が顔を出すと、「ああ、たあくんだった、驚いた。たあくん、ただいま」って笑顔でさ。  そん時は母ちゃんを笑わせるためって思ってたけど、今はわかるよ。俺さ、さみしかったんだよな。だから少しでもかまってほしかったわけよ。  そんで俺、中学に上がったころからバケモノになる修行を始めたわけ。百年間バケモノの修行したら、本物のバケモノになれるんだってさ。まあ、母ちゃんは百年も付き合ってくれずに途中で死んじゃったけどさ。  いや、俺も百年は無理かなー。まだ、山で修行中だし。こないだも、お祭りの時さ、ふもとに降りてひと暴れしたけど。喜んでもらえたかな。次は、秋葉とか、都会でもやってみようと思うんだ。  俺、なんとニュースにも出たんだぜ。母ちゃんのちっちゃい頃の夢、アイドルになってTVに出るんだったって。すごいよね。俺、母ちゃんの夢もかなえちゃったんだー。  え、なんで俺が捕まるの? だってバケモノって言ったって、中身は俺だよ? みんなをびっくりさせたいだけで。まあ二・三人死んじゃったけど。  でもみんな、ホントの俺を見たら、「ああ、たあくんだった、驚いた」って言ってくれるよ。  その瞬間が、俺、さみしい気持ちを忘れるときなんだ。
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