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第116話 幕引き
「わたくしの周囲も、ずいぶん賑やかになったものだわ」
お嬢様は私たちを見まわして、そう言った。
王子とライラ様のダンスが終わり、ダンスホールは拍手に包まれた。
二人は互いにお辞儀をして微笑み合う。ライラ様はそっとその場を離れて、使用人のジルやメイドたちのもとに向かった。残された王子は誰かを探すように辺りを見回している。
「そういえば、二度目のダンスってどうされるんでしょうか」
エマが首を傾げた。
「一度目のダンスは婚約者と。二度目のダンスは婚約者の母親と踊る決まりですよね」
婚約発表のパーティーでは、王子は二回ダンスを踊ることになっている。一度目はお披露目のために婚約者の令嬢と。そして二度目のダンスは「あなたの娘を幸せにします」という約束をこめて、婚約者の母と踊るのがこの国のしきたりだ。
だがライラ様の母親であるアンナ様は、もういない。
「アンナ様も、この場で踊りたかったでしょうね」
お嬢様がそう呟いたとき、王子の視線がお嬢様を捉えた。
談笑していた貴族たちが王子のために道をあける。王子は美しい動作で貴族の前を歩きお嬢様のもとにくると、うやうやしくその膝をついた。
「レイチェル嬢。二度目のダンスのお相手を、お願いできませんか」
「わたくしですか?」
「ええ。ライラ嬢と私からのお願いです」
お嬢様がライラ様をみると、ライラ様は微笑んで頷いた。王子も笑ってお嬢様に手を差し伸べる。
「お嬢様、行ってらっしゃいませ」
「――ええ」
そっと王子の手を取って目を細めた。
「レイチェル様が踊るのであれば、私も花を添えましょう」
ディーはそう言うと、楽しそうに楽器隊の中にまざっていった。
レイチェルお嬢様は王子に手を引かれてダンスホールの中央に進み出る。互いにお辞儀をして手を取り合うと、ディーの奏でるヴァイオリンの音色がホールに響いた。その一音で、談笑をしていた貴族たちも口を閉ざす。
お嬢様は赤色のドレスを美しく揺らして踊り始めた。
お嬢様の瞳と同じ、赤いドレス。腰には金糸の刺繍が輝き、スカートにはチュールが一枚かけられている。主役のライラ様を引き立てるために派手さこそ控えているが、どこまでも美しかった。
さきほどの王子とライラ様のダンスは華やかなものだったが、レイチェルお嬢様とのダンスは美しく洗練されている。会場の人間の視線が集まっているのが分かる。ほうと誰かが吐息を吐いた。
「綺麗ですね」
「ええ。さすが、私たちのお嬢様」
「はい」
楽しそうに踊るお嬢様を、私たちは笑いあって飽きることなく見つめ続けたのだった。
――――――――
Fin.
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