第8話 昔の話2

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第8話 昔の話2

「新しいお前の母と妹だ。仲良くしなさい」  旦那様はそう言って、新しい奥様を連れて屋敷に帰ってきた。その奥様には、レイチェルお嬢様と歳が二つ違う娘がいた。それがライラ様だ。  ライラ様の母上、アンナ様は中流貴族の娘だった。この国の貴族社会では妻以外の妾がいることは珍しくない。先妻が無くなれば、妾を後妻にすることだってよくあることだった。  とはいえ、まだ母を亡くした悲しみに沈んでいる中で、違う女性を母と呼べと言われても素直にうなずけるわけがないだろう。それに加え、腹違いの妹のライラ様の存在が大きかった。  旦那様はライラ様をよく可愛がっていた。お嬢様に対する態度とは明らかに違っているのは、誰の目にも明らかだった。  新しい奥様であるアンナ様も、その娘のライラ様も太陽のような方だと誰もが噂をするほど、明るくて華やかな人だった。先妻を亡くした悲しみをそんなお二人が癒してくれたのか、それとも以前からそうだったのかは分からないが、旦那様はアンナ様とライラ様を特別に愛した。  そんな状況では、家族円満なんて難しいだろう。  お嬢様からは日に日に笑顔が消えていった。  アンナ様もライラ様も優しい人だから、日を重ねるうちにお嬢様との溝も埋まってくれるだろうと思っていた周りに反して、レイチェルお嬢様と新しい家族の距離が埋まることはなかった。お嬢様は家族を遠ざけ、自室にこもるようになってしまった。  それでもライラ様たちはずっとお嬢様に笑顔で接してくれた。  アンナ様もライラ様もいい人なのだ。きっといつか、レイチェルお嬢様の気持ちの整理もつくはずだと、私たちは願っていた。  しかしそんな折、アンナ様が病に倒れた。  ――先妻の呪い。  貴族の間ではそういう噂が広まった。自分の亡きあと、すぐに妾を屋敷に迎えられたことに腹を立てた先妻の悪霊が呪っているのだと、好奇の目で見ていた。  貴族社会は蹴落とし合いの世界だ。恨み恨まれることは日常茶飯事。そのせいか、呪いなんてこともよく噂にされる。失脚させられた誰それが呪いをかけただの、男に愛想をつかされた女が生霊になっただの。その手の噂はよくあることだ。  アンナ様はその後、看病も虚しく亡くなった。  旦那様はアンナ様の亡きあと、レイチェルお嬢様に一層冷たくなった。まるで敵をみるような目でお嬢様を見る。お嬢様の心はもう限界だったのだろう。  ある日のことだ。  ライラ様はいつものように笑顔でお嬢様に声をかけた。母を亡くした悲しみはライラ様にもあったはずだが、お嬢様に気を遣ってくれたのだろう。  けれどその日、お嬢様ははじめて声を荒げた。
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