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第100話 学術的怪談1
私たちが見守る中、出来上がった部屋の様子はいかにも幽霊が出てきそうな薄暗くて寂しいものになった。
「リーフさん? 大丈夫ですか?」
「ええ」
肌寒いような不安な気がして、私は自分の腕を抱いた。どこか落ち着かない。
パッサン卿は満足そうに部屋を見渡して、ディーにどうだと聞いた。
「来たときよりも、ずっと音も気配も強まっています。うまくいっているのではないでしょうか。リーフもそう思うでしょう」
「はい。どことなく寒くて、妙な感じが――」
そういうと、部屋にいる人間の視線が私に集まった。あまりにもまじまじと見つめられて居心地の悪さを感じる。私はなにか変なことを言っただろうか。
「あの――?」
「わたくしは、寒くもないし、妙な感じもしないわ」
多分それを感じているのはリーフとディーだけよ、とお嬢様がいう。
「リーフも不思議な魂をもっていますから、そういうものの干渉を受けやすいんでしょうね」
はあ、と私は中身のこもっていない返事をした。
他人には感じられないものを感じるというのは、なんだかおかしな感じだ。私は、前世の記憶があるだけで、他は普通の人となにも変わらないと思っていたのに。今まで幽霊の存在も感じたことはないのだし。
「さて、最後の仕上げだ。エマ」
「うん」
パッサン卿が呼び掛けると、エマが丸い鏡をもって歩いてきた。直径は三〇センチほど。小机の上にイーゼルをおいて、そこに立てかけた。
鏡の裏には白いインクでなにか複雑な模様が描かれている。鏡の淵に沿うように二重の丸。その丸と丸の間にはよく分からない文字が書かれている。中心には星の形。その星の中にも小さな丸や、文字、模様が書かれている。
王子はその鏡を不思議そうにみていた。
「鏡――、怖い話にはよく出てきますね。子どもの頃、エリスからよく聞かされました。鏡の中に幽霊が映るとか、鏡の中から手が出てきて異界に吸い込まれるとか」
エリスというのは第一王女のことだ。こざっぱりした性格でいたずら好きの彼女であれば、そういう怖い話を嬉々として話すのも想像ができる。
「鏡に映る世界は反転しているというのが、その類の話に頻出する由縁かもしれませんな」
「どういうことですか?」
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