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第106話 悲しみの連鎖を
「ライラ、ごめんなさい」
「お姉様――?」
お嬢様は先程までの強い姿を消して俯いた。
「あなたを傷つけたのも、アンナ様を亡くしたのも、わたくしの母が原因だった。お母様にあなたたちを傷つける意志はなかったのだと思う。ただわたくしを守ろうとして――。ごめんなさい。わたくしが、最初からあなたたちを受け入れていたのなら、お母様はこんなことをしなかったかもしれない。わたくしがもっと――」
声が震えて、次の言葉が続かなかった。
奥様はただお嬢様を守ろうとしただけ。だがその結果、アンナ様が亡くなったのもまた事実。お嬢様の立場からみれば、自分のせいで人が死んだと感じるのかもしれない。
先ほどお嬢様がなにかに気づいたように唇を噛んだのはこれか、と私は俯いた。
奥様の前では強く振る舞っていたが、その罪悪感が今お嬢様の中であふれ出してしまったのだろう。涙がこぼれて肩を震わせる。
ライラ様は青白い顔を歪めて姉を見上げた。
「そんな――、奥様を傷つけていたのは私たちですもの。だから奥様を責める気はありません。もちろんお姉様のことも。――でも」
そこまで言って、ライラ様は力なくお嬢様にもたれかかった。
「でも、あんなに優しかったお母様が死んでしまったのは、やっぱり悲しいし、悔しいです」
震える声でそういうと、嗚咽を漏らし、お嬢様の胸に顔をうずめた。
みんな、だれかのために悲しんで、だれかを悲しませた。これ以上、人を恨みたくないのだ。かといって、身の内の悲しみが消えることはない。
お嬢様とライラ様は声を押し殺して泣いた。
旦那様は、無言で姉妹の姿を見つめていた。
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