第109話 眩しい世界

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第109話 眩しい世界

 その日、朝から王子がライラ様の部屋に訪れていた。  数週間前はなぜ王子が屋敷に、とざわついていたメイドたちも今ではすっかり慣れたようだ。  最近の屋敷内では若いメイドたちがジル派と王子派に別れてわいわいと語り合っている。結局、その話は「どちらもお美しい」という結論に落ち着くのだから、平和だ。  王子はライラ様を連れて庭を歩き、例の「秘密の場所」にたどりついた。美しい草花に囲まれた小さな空間。かつて奥様とお嬢様がよくお茶会をした場所。 「王子とライラ様が並ぶと眩しいんですよね。目が痛い」  談笑する二人からはすこし離れた場所で、私はため息交じりにそう言った。隣ではジルが小さく噴き出す。 「大袈裟ですね」 「だって、すごくきらきらしていますよ」  もともと、王子もライラ様もそれぞれが容姿にすぐれた方だ。華があって、彼らの周りは輝いてみえる。そんな二人が並ぶものだから、目が痛いというのも大袈裟ではない。  レイチェルお嬢様も美しいことに変わりはないのだが、美しさの方向性が違う。  王子やライラ様が周りの心を華やかにさせるのに対し、レイチェルお嬢様は周りを落ち着かせてくれる。波打っていた心もすっと平静になれるのだ。  私たちが見守る中、王子は柔らかく微笑んだ。陽の光に王子の金色の髪がきらきらと照らされている。まるで太陽すら王子の引き立て役になろうとしているようだ。 「もうすっかり体調もよくなられましたね」 「ええ。何度もお見舞いに来てくださって、殿下には感謝しかございませんわ。それに、お姉様と仲直りができたことも、殿下のおかげです」 「たいしたことはしていませんよ。ですが、あなたの手助けができたのならば、私も嬉しいです」  二人は顔を見合わせてふふっと笑う。 「――ライラ嬢」 「はい」  王子は目を細めた。 「本当に、あなたが無事でよかったです」  ゆっくりと、ライラ様が無事であることを噛み締めるようにそう言った。王子に見つめられて、ライラ様の頬が淡く染まる。  私とジルは顔を見合わせた。
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