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第111話 願い下げ
「本当は別の女性と結婚したかったのに仕方がないから結婚されるなんて、わたくしはごめんですわ」
ふんっと鼻を鳴らす。
「それに、わたくしが后になりたいと思ったのは、貴族社会で地位を確立させるためです。わたくしが認められるための一つの手段にすぎません。王子のことが好きだから結婚したいわけではありません」
清々しい物言いだった。王子に失礼な発言ではあったが誰も咎める者はいなかった。
お嬢様はそこまで述べると、ふと優しい顔をする。
「わたくしは、后にこだわらずとも自分の居場所を作れることを実感いたしました。こんなわたくしを信頼してくれる人たちがいて、慕ってくれる人がいて、協力してくれる人がいて、親しんでくれる人がいる」
だから、とお嬢様は王子に言い放った。
「わたくしはもう、ルイス殿下の后の座になんてこれっぽっちも興味がございません。むしろ願い下げですわ」
「お、お嬢様、なにもそこまで言わなくても――」
マリーが頬を引きつらせながら小声で言ったが、お嬢様は聞こえないふりをした。なにも反応ができない私たちをみて、おかしそうに目を細める。
「つまり」
一度言葉を区切って、ライラ様に微笑んだ。それは、奥様が幼いお嬢様を見守っているときの顔によく似ていた。
「こんなわたくしよりも、よっぽどライラの方が后に相応しいのだと、わたくしは思うのです」
ライラ様は目を瞬いた。でも、と震える声がする。
「お姉様、私は」
「あなたは、もうわたくしに遠慮をする必要はないのよ。ライラはライラの幸せを掴めばいいわ。わたくしも、自分の道を生きるから」
「でも、お姉様」
私は妹なのだから。あなたに迷惑をかけたのだから。
言いたいことは手に取るように分かったが、結局なにも言えずに俯いた。
「頑固な子ね。――あなたはどう思う?」
ふいにお嬢様がジルに視線を寄こした。
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