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第112話 はじめの一歩
この場で自分に矛先が向くとは思っていなかったらしいジルは目を見開く。そうですね、としばらく逡巡して微笑んだ。
「おっしゃるように、ライラお嬢様はすこし頑固すぎます。理屈で動く理性的なお嬢様のことを私は尊敬していますが、ご自分のお気持ちに素直になってもいいのではないかと、そう思います」
「ジル――」
ライラ様はジルを見て、なにか言いたそうにする。けれどそれものみこんで再び俯いた。
想い人であるルイス王子に、姉であるレイチェルお嬢様、そして兄のように慕うジルに言葉をかけられて、もうそれ以上の呼びかけは必要ないだろう。私たちは黙って待った。
しばらくライラ様は膝の上で手を握っていたが、そっと顔を上げた。お嬢様、ジル、王子の順に視線を送る。唇を震わせて、ためらって――、口を開く。
「私、私は――、殿下のことが好きです。他の女性のだれにも、殿下の隣には立ってほしくありません。隣には、私が立ちたい」
そう言った。
王子は少しだけ目を見開いて、そして微笑んだ。お嬢様とジルはやれやれといったように笑う。
「僕たち、すごい現場に居合わせていますか?」
「そのようね」
こそこそとそう言って、レオンと私も笑いあった。マリーはりんごのように真っ赤な頬を両手で包んで王子とライラ様を見つめている。
「殿下、妹のことをどうぞよろしくお願いいたします」
「はい」
手をとりあう二人に微笑んで、お嬢様は振り返った。風に黒髪をなびかせながら、私たちに向き直る。
「さて。マリー、レオン、そしてリーフ。行くわよ」
「え、どちらに?」
決まっているでしょう、と微笑む。
「ライラが正直になったのだから、わたくしも正直になるの」
高らかにそう言って、踏み出した。
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