第12話 妹との密会1

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第12話 妹との密会1

 本日二度目の本館で、ライラ様の自室に案内される。  白を基調に薄桃色がアクセントになった清楚な部屋だ。置かれている家具も真新しい高級品。  ライラ様は私を見るなり微笑んで招き入れてくれた。  控えていたメイドは手に持っていた花束をライラ様に手渡すと、一礼して部屋を出ていく。 「これをお姉様に届けてほしくて、あなたに来てもらったのよ。わざわざごめんなさいね。お仕事忙しくなかった?」 「いえ、急ぎの仕事はございませんので。お心遣い感謝いたします。この花束は――」  ライラ様に渡されたの小ぶりな花束。マーガレットを中心に、白くて小ぶりなカスミソウ、水色のブルースターに、ミモザの黄色がアクセント。ライラ様らしい淡い色合いの花束だった。 「リーフと朝お話してから、庭師にお願いして作ってもらったのよ。お花は私も一緒に選んだの。お姉様喜んでくださるかしら?」  そう微笑まれて、今朝ライラ様と庭で会った時のことを思いだす。美しく咲く花をお嬢様の部屋に飾るため、すこしだけわけてくれないかと頼んでいたのだ。家令との難しいやり取りのせいですっかりそのことを忘れていた。思わず変な汗が流れる。 「――ありがとうございます。きっとレイチェルお嬢様もお喜びになります。お部屋に飾らせていただきますね」  お嬢様は素直に喜んでくれるだろうか。過去のこともあって、今でもお嬢様はライラ様のことを遠ざけている。そんな妹からの贈り物を、どう思うだろう。  別館にいる主人に思いを馳せていると、ライラ様が「それからね」と付け加えて微笑んだ。 「せっかくだから、少しだけお話に付き合ってほしいの。駄目かしら?」  こてんと首を傾げる彼女の誘いを断る理由など、使用人の私にはない。頷けば、ライラ様は私に椅子をすすめた。  一度断りを入れたが、ジルが笑顔で椅子をひくものだから座らないわけにはいかなくなってしまった。主家の令嬢と同じ場に座って話をするなんて、使用人の私には恐れ多い。戦々恐々と椅子に腰をかければ、ライラ様は可笑しそうに笑った。 「そんなに身構えなくても大丈夫よ。今この部屋にいるのは私とあなたとジルだけ。メイドたちにはしばらく席を外すように言ってあるし、お父様は最近仕事がお忙しいようで書斎にこもっていらっしゃるから、ここには来ないわ」  「今朝お話したときも疲れたようなお顔だったから、まだ仕事は終わりそうにないみたい」とライラ様は困ったように言う。  旦那様が来ないのであれば安心――、と言いたいところだが、彼女の言い方は妙に引っかかった。わざわざ人が来ない状況を作って私を呼んだかのような口ぶりだ。いや、多分そういうことなのだろう。  そこまでしなくてはならない込み入った話、ということであれば内容は想像できるというものだ。 「お姉様は、宮廷のお茶会に行かれるのかしら」  こてんと首を傾げて、綺麗な緑色の瞳に見つめられる。予想通りの話題に私は苦い顔をする。 「お話はしたのですが、まだ悩んでおられるようで」  ぼかして返事をすると、「そう」とライラ様は頷く。 「お姉様、まだお部屋から出る様子はない?」 「どうでしょう――、私には判断が難しいです」  曖昧に返事をする私をみて、ライラ様は一つ息を吐いた。膝の上で手を重ねてわずかに逡巡してから、顔を上げる。 「――ねえ、リーフ。私がお姉様のことを恨んでいるだとか、嫌っているだとか、そういう風に思っているかしら?」 「そういうわけではございません」 「じゃあ、お姉様について話そうとしないのはどうして?」  私は目を逸らして黙り込んだ。
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