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第15話 使用人の見送り
「ライラ様、ああいう真剣な表情もされるんですね。驚きました」
ライラ様の使用人であるジルが別館まで送ってくれるというので、一緒に庭を歩く。本館から別館に移動するだけなら屋敷の中のことで危険もないのだし、送ってもらう程の距離でもないのだが。
「ライラお嬢様も、真剣にバルド家の未来のことを考えているのです。それにあの方は存外、理屈主義なところがありますから。長子社会の決まりごとを違えるのがお嫌いなんですよ」
「そのようですね。もっとこう、ふわふわした方だとばかり思っていました。――あ、いえ、悪く言っているわけではないのですが」
ライラ様は蝶よ花よと育てられたお嬢様で、あんな風に強い目をする人だとは思わなかった。
ジルはおかしそうに笑い声をあげる。私より七、八歳年上でいつも飄々としている彼にしては、子供らしい笑い方だった。
「リーフの言いたいことは分かりますよ。お嬢様は、一見すると吹けば飛ぶような方ですが、その実とても頑固なんです。面白い方でしょう」
くすくすと笑うジルの声を聞いていたら、あっという間に別館の目の前に到着していた。
「さて、それではお別れですね」
ジルは私に向き直り、胸に手をあてて微笑む。
「ライラお嬢様がおっしゃることですから、俺もレイチェル様が后になるための協力は惜しみません。手伝えることがあれば教えてください。――とはいえ、まずはレイチェル様がその気になっていただかないと始まりません。それは、リーフに頑張っていただかないと」
別館の前では、不安そうに赤毛をいじるマリーがいた。私の帰りを待っていてくれたようだ。
マリーは私を見ると安心したように微笑んで大きく手を振った。そんなマリーをみてジルは銀色の目を細める。
「可愛らしい方ですよね、彼女。小動物みたいで」
「ちょっと、うちの子に手は出さないでくださいよ」
「出しませんよ、年下には興味ありませんから。――それでは、色々とよろしくお願いしますね。そうそう、その花束。メイドたちが止めるのを振り払って、ライラお嬢様自ら庭で選んだ花ですから。大切に扱ってください」
ジルは微笑んで頭を下げると、ゆるやかな足取りで本館への道を戻っていった。私はマリーの顔をみるとほっと息を吐いて、その赤毛を撫で回す。きゃっと可愛らしい悲鳴をあげたが抵抗はされなかった。
「マリーがいると癒されるわ――、疲れた」
「大丈夫ですか? なんのお話だったんです?」
「うーん、色々と込み入った話」
私は息を吐いた。
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