第20話 作戦会議2

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第20話 作戦会議2

「なにかしら」 「このお方なんていかがですか?」  マリーは本棚から一冊の本を取り出す。それはお嬢様の愛読書だった。深い緑の表紙の本。  小難しい理論がつまっていて、私も一度読ませてもらったが内容はとても頭に入ってこなかった。半分ほど読んで降参し、お嬢様に返した苦い記憶がある。 「この本を書いたパッサン・リアル卿って、たしかすごく有名な方ですよね。とても偏屈で、誰も寄せ付けないって聞いたことあります。この人だったら、まだどの家とも関係を結んでいないんじゃないですか?」  私とお嬢様はしばし無言で本を見つめた。  本の著者であるパッサン・リアル卿。御年六〇ほどだっただろうか。  頭脳明晰で、研究者として多くの功績を残している。哲学、歴史、政治、どの分野でも周りより頭一つ飛びぬけていた。その頭脳は国政にも発揮され、国の危機を救ったこと数知れず。  ただし、人と関わることは好まず、常に一人で研究室にこもっていると聞く。  国政に関わる際も、王から直々のお達しがでない限りは宮廷に赴かないほどらしい。天才だが、人嫌いの変人といわれている。  お嬢様は唇を人差し指にあてて唸った。 「――そうね、たしかに、パッサン卿はどこの貴族とも懇意にしていないはずだわ。これまでも色々な貴族がアプローチしているようだけど、全て断ってきているはず」 「では、お嬢様の後ろ盾にピッタリではないですか!」  にこにことマリーは微笑んだ。  私はお嬢様の様子を窺う。お嬢様は難しい顔で考え込んでいた。  パッサン卿の変人ぶりは私もよく聞いている。有名貴族バルド家の令嬢といえども、お嬢様のような若い娘が家庭教師になってくれと単身頼み込んだところで、頷くだろうか。  いや、しかし、こちらももうあとがない状況だ。他に候補になりそうな人もいない。  お嬢様は悩んだ末に、決意を固めるように深呼吸をした。 「――ここまできたら、それくらい大胆なことをした方がいいのかもしれないわね」 「はい。同感です」 「決まりですね!」  マリーがぱちんと手を叩く音が部屋に響いた。  こうして、私たちの目標は変人天才学者と名高いパッサン・リアル卿に決まった。
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