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第24話 本探し
「『時間と空間』、『悪霊の科学』、『魂の行く先』、『天文にみる歴史』――、色々ありますね。分類もばらばら」
「本棚の場所は把握していますから、大丈夫です。こちらです」
少女はそう言って歩き出した。
迷うことなく本棚の間を進んで、背表紙とメモを見比べながら本を探していく。
「随分とこの図書館に慣れているんですね」
「よく来ますから。すみません、あそこの本を取っていただけますか?」
指さされた先の本を引き抜いて、また次の本棚へ。
「いつもは職員の方が踏み台を用意してくれているんですが、今日は掃除のために違う場所に持っていってしまったみたいなんです。だから困っていて。助かりました」
「礼を言われるほどではないですよ。この本、あなたが読む――わけではないですよね」
「はい。祖父に集めてくるよう頼まれたんです。――あそこの本もお願いします」
少女が指さす先にあるのは『悪霊の科学』。霊的な存在と科学という不思議な組み合わせだ。
「こんな色々な本を、おじいさまがお一人で?」
「そうです」
「おじいさまは研究者でいらっしゃるんですか?」
本を渡しながら問いかけると、そうですよと答えがかえってきた。
そうして図書館を歩くこと数分。少女と私で集めた本は机の上にまとめた。あわせて六冊。
「ありがとうございました。これで全部です。お世話になりました」
少女はぺこりと頭を下げる。私のお手伝いも終了らしい。それではさようなら、と別れようと思ったが、ふと気になったことができて足を止めた。
「この本、どうするんですか」
「三階に祖父の研究室があるので、そこに持っていきます」
「――一人で?」
少女は不思議そうな顔をしてから、本の山を見つめて「あ」と声をあげた。
本は一冊一冊が分厚い。六冊もあわさればその重さは相当なものだろう。少女一人の腕では一度に運ぶことは不可能だ。
そこまで考えていなかったらしい少女の顔をみて、思わず笑ってしまった。少女はうっすら頬を染めて、眼鏡の位置を直すふりをして顔を隠した。
「笑わないでください――」
「ごめんなさい。三階に持っていくまでお手伝いしますよ」
「すみません、お願いします」
気まずそうに下を向いて少女はまた頭を下げた。
か細い少女の腕に本をもたせるのは忍びなくて、二冊だけ渡し、残りの四冊は私が抱えた。予想以上の重さだったが、少女に任せる心苦しさに比べたらましというものだろう。
階段をのぼって、三階にたどり着く。エリート専門の階だ。
「おじいさまは優秀な研究者でいらっしゃるんですね」
「はい、祖父は私の憧れなんです。なんでも知っているし、国のお偉い様にも信頼されているんですよ」
眼鏡の奥の瞳を輝かせて少女はそう言った。その様子はマリーに似た愛らしさがある。私はついつい頭を撫でたくなるのだが、本を抱えているし初対面の相手に失礼だろうと、ぐっとこらえた。
少女はぐんぐん廊下を進む。
いくつものドアを通り過ぎた。パッサン卿の研究室を訪れたときと同じ景色。
そんな都合のいいことがあるだろうかと思いつつ、私の中には一つの予感が浮かんでいた。廊下の中ほどを通り過ぎても歩く速度を緩めない少女に、その予感は強くなっていく。
一体どこまで進むのだろうか。
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