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第27話 再訪2
「また来たんですか」
振り返ると、リスの尻尾のような髪型をした少女が一人。先日も会った、パッサン卿の孫という少女だ。
今日も彼女の腕には大量の本が抱えられていた。
少女はお嬢様をみて首を傾げる。黒縁眼鏡の奥、黄色がかったつり目に好奇心の色が映る。
「レイチェル・バルドと申します」
お嬢様はドレスの裾をつまんで一礼した。
少女はお嬢様の頭からつま先までをみて、ぽかんとする。
「バルド家のご令嬢がなんでこんなところに」
「パッサン卿にお話がございまして」
「そうですか。――じいちゃん、じいちゃんにお客様だって。ちょっとくらい話聞いてあげたら?」
気を取り直した少女は扉に声をかける。すると間もなく扉があいて、中からパッサン卿が顔を出した。
――居留守か。
数日ぶりに見るパッサン卿はやはり不機嫌そうな顔で、威圧感の塊だった。しかし今日はお嬢様もいる手前、簡単にひくわけにはいかない。
「お久しぶりです。どうしてもお話を聞いていただきたくて――」
「誰がきても、儂には話すことなどない」
パッサン卿は少女の手から本を奪いとると豪快な音をたてて扉を閉めた。ドアが壊れてしまいそうなほどの音で、思わず肩が跳ねる。
私とお嬢様は無言で顔を見合わせた。
「多分ですけど、じいちゃん今日はもう部屋から出てきませんよ。論文が大詰めだって言っていたので。せっかく来てもらって悪いですけど、諦めた方がいいです。私も用事があるので、これで失礼します」
私たちを不憫そうにみていた少女はぺこりと頭を下げ、髪を揺らして去っていった。
私たちは一階におりて閲覧者用の椅子にお嬢様を座らせ、ため息をついた。
「やはりパッサン卿とお話をするのは難しそうですね」
「そうね。でも簡単に諦めてしまうのは悔しいしわ。彼以外には目ぼしい人もいないのだし」
そうはいっても、先ほどのやり取りを思い返すと話を聞いてもらうことすら難しそうだった。
「パッサン卿の威圧感、凄いですね」
溜息が漏れる。お嬢様のためにも頑張らなければとは思うけれど、パッサン卿を目の前にするとどうにも緊張して肩に力が入る。
「どうされますか」
「返答がどうであれ、一度話だけでも聞いていただきたいのだけど」
お嬢様はあごに手をあてて考えこんだ。諦めるという文字はないようだ。私もしっかりしなければとお嬢様に向き直った。
「まずはお話を聞いていただく機会を作らなくてはいけませんね。――そういえば、パッサン卿のお孫様がいらっしゃいましたね。黄色い目をした利発そうな少女」
ふと思いだしたのは、年齢の割に大人びて眼鏡をした少女のことだった。
「パッサン卿とも仲がいいようですし、彼女を通して機会を作れないでしょうか」
私の前世でもそうだったが、この世界の老人も孫には甘いらしい。
少女はよくパッサン卿の研究室に出入りしているようだし、二人のやりとりからみても仲はいいのだろう。少女を味方につけてしまえば、パッサン卿も話を聞いてくれるかもしれない。
お嬢様はふむと頷いた。
そのとき。
「無理だと思いますよ」と幼い声がした。
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