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第42話 お目見え
お嬢様はエリス王女と並んで話をしていた。時々他の令嬢も挨拶に訪れて、その度にお嬢様は緊張した面持ちで応対をしている。
暫くそうしていると、王女は人垣の中に誰かを見つけたようで、「ちょっと失礼、挨拶してくるわ」といって颯爽と歩き出してしまった。その後ろ姿を眺めながら、お嬢様はずっと我慢していたらしい長いため息をはく。
「わたくしも、少し席を外すわ」
「それではこちらに。木陰がありましたので、休憩いたしましょう」
会場から少し離れた庭の一角にベンチがあった。木陰になっていて、ベンチに座ると目の前には噴水を見ることができる。
マリーは会場から飲み物をもってきて、ベンチに座るお嬢様に差し出した。
「エリス王女、不思議な方ですよね。あんまり王族らしくないというか」
「ええ。彼女は昔からああだったわ。連絡を絶っていたこと、すいぶん怒られてしまった」
お嬢様は困ったような顔をしていたが、どこか嬉しそうだった。
「あんなことがあっても、わたくしのことを心配してくれている人もいたのよね。それなのに、わたくしは自分からその縁を切ろうとしてしまった。申し訳ないことをしてしまったわ」
グラスの淵をそっと撫でる。
エリス王女にずいぶんとお叱りを受けたようだ。でもそれは、お嬢様を大切に思ってくれているということ。それはお嬢様にもきちんと伝わっている。
マリーはほっとしたように微笑んだ。
「エリス王女とも、また親交を深めていけるといいですね」
「そうね」
お嬢様はグラスに口をつけた。
そのとき、心地のいい風とともに柔らかい声がした。
「懐かしい人が来ていると聞いてきてみれば、本当のようですね」
お嬢様ははっとして、グラスをマリーに押し返し立ち上がる。その表情には緊張が走った。
声の主は美しく微笑む。
「何年ぶりですか、レイチェル嬢」
「ご機嫌麗しゅう。ルイス殿下」
ドレスの裾をつまみ、深く頭を下げる。男は頷いて笑った。
ルイス・フォン・アルベルト。
この国の第一王子だった。
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