第49話 芸術家の興味

1/1

732人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ

第49話 芸術家の興味

 二度目のディーのアトリエ。  今回はお嬢様と私とマリーというフルメンバーで訪れていた。  ディーの曲作りが終わるまでが交渉の期間だが、どうやら既に曲作りはほとんど終わっているらしい。私たちに与えられた時間は短い。その時間の中でディーと親しくなるために、コミュニケーション能力に長けているマリーを連れてきたというわけだ。  ディーは私たちを快く招き入れてくれた。今は紅茶の淹れ方について、マリーと談笑をしている。会ってすぐに二人はにこにことおしゃべりを始めたのだから、マリーを連れてきたのは正解だったようだ。 「パッサン卿の時とは違って空気が和やかですね」  二人を眺めながら呟くと、お嬢様はくすりと笑みを漏らした。 「パッサン卿にディーのことをお話したら、また通い詰めるだけの作戦なんて芸がないってため息をつかれたわ」 「その通い詰める作戦にまんまとおちてしまったパッサン卿に言われたくないですね」  二人でくすくすと笑う。  マリーとディーを見ると、紅茶の話から街の話へと移ったようだ。ディーは好奇心に満ちた目でマリーの話を聞いている。 「ディーさんはあまり街へは行かないのですか」 「アトリエにこもっていることが多いですから。でもマリーの話を聞いていると興味が湧いてきました」  ディーの目はあまりにも輝いていて、マリーがどんな話をしたのか気になるところだ。  お嬢様は少し考えて、ディーに微笑みかけた。 「それでは、わたくしたちと一緒に街に行ってみませんか?」 「レイチェル様も街にはよく行かれるのですか?」 「何故だか街に知人が増えてしまって。最近では度々顔を出していますわ」  街娘のリンや、子どもたちの兄貴分である金髪の少年レオンと知り合ってからというもの、お嬢様は街で有名になっていた。まずは街の子どもたちが興味津々といった様子でお嬢様に近寄ってくる。そしてその親たちも周囲に集まるようになって、一気に知り合いが増えたのだ。  街に住む人々は子どもも大人も活気のある目をしている。それは貴族社会には珍しいものだった。貴族社会を嫌うお嬢様には、その街の空気が新鮮で好ましかったようだ。 「ぜひ街に行ってみたいものです。ご一緒させてください」  ディーは子どものようにはしゃいだ声を出した。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

732人が本棚に入れています
本棚に追加