第50話 活気ある街

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第50話 活気ある街

 その日、馬車にはお嬢様と私とマリーのいつものメンバー、そしてディーが乗っていた。  ディーは窓から流れる景色を楽しそうに眺めている。遊びに連れていってもらう子どものようだ。  ディーと約束をしていた街へのお出かけの日だった。  馭者の親父さんは「最近お出かけの頻度が多い!」とひいひい言っていた。流石に親父さん一人ではまかなえず、親父さんの息子も馭者を買って出るようになった。  朝、ディーをアトリエに迎えに行くと、彼はすでに外出する準備をして庭で待っていた。にこにこと楽しそうに笑って私たちに手を振ってくれた。  彼は私たちより年上のはずだが、好奇心が強くて無邪気な子どもらしい一面があるようだ。 「街にいる知人にも声をかけてありますから、ディーにもご紹介しますね」  レオンとエマには今日街に行くことを手紙で知らせてあった。レオンは私たちが街に行くたびに子どもたちを引き連れて遊びにきてくれる。エマも暴漢の一件以来レオンとの交流は続いているようで、時々街に出かけているらしい。 「活気があっていいですね。心地よい音が響いています」  街について馬車からおりると、ディーは目を閉じてそう言った。街の人の賑やかな声を聞いているのか、それともディーにしか聞こえない何か特別な音を聞いているのか。どちらにせよ、ディーは嬉しそうな顔をしている。 「ディーさんディーさん! あっちに市場があるんです! 行ってみましょう。いっぱいお店が並んでいてここよりもっと賑やかですよ」 「それは楽しそうですね」  マリーはこちらが止める間もなく、ディーの腕を引っ張って市場の方へ向かっていった。 「まったく、困ったものですね。お嬢様、私たちも行きましょうか」 「そうね」  お嬢様はおかしそうに笑いながら二人のあとをついていく。  すれ違う街の人たちは深緑の髪をした見慣れぬ麗人を不思議そうに眺めて、その後ろを歩くお嬢様をみるとどこか得心したような表情をする。 「おはよう、レイチェル様。あの緑の人、レイチェル様のお連れ様ですか? 綺麗な方ですねえ。私たち庶民とは全然空気が違いますよ」 「いやあ、レイチェル様がこの街に来てから美人さんを見かけることが増えましたねえ」  市場からの帰りらしい、大きな紙袋を抱えた奥様たちが豪快に笑いながら通り過ぎていった。そのあともすれ違う人は気さくに声をかけてくる。 「お嬢様もすっかり有名になりましたね。最初は馬車からおりることもなかったのに」 「令嬢としては相応しくないかしら。庶民にまぎれて街を散歩するだなんて」 「そんなことありませんわ。私は、今のお嬢様が好きですよ」  街の活気に影響されてか、お嬢様もここにいると生き生きとしているように思う。屋敷に閉じこもっていた時よりも、今のお嬢様の方がずっといい。 「リーフさん、お嬢様! 早くきてください!」  店の前でマリーが手を振っている。その隣ではディーが物珍しそうに商品を物色していた。 「どうしたのマリー」 「奥さんがリーフさんに見せたいものがあるって!」
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