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第52話 きっかけの少女
ディーは好奇心を隠さずに、あちこちの店を物色していた。市場の端から端まで歩いて気になったものは片っ端から買っていたため、いつの間にか私とマリーとディーの腕には中身がパンパンに詰まった紙袋があった。
「すみません、お二人にも持たせてしまって。ついはしゃいでしまいました」
そう言ってディーは照れ笑いを浮かべた。マリーは首を振ると「あ」と声をあげる。
「あそこのジュース美味しいんですよ。ちょっとだけ休憩しませんか」
マリーは近くの木箱の上に紙袋を置くと、出店へと走っていった。私たちは人の邪魔にならないように路地の隅に移る。
「ここは色々なお店があって楽しいものですね。今日は街に来ることができてよかったです」
「ディーは普段外には出歩かないんでしたね」
「ええ。でもたまにはこうして外に出て、たくさんの人に触れるといいものが作れそうな気がします。お誘いしてくださったレイチェル様のおかげですね」
深緑の目がお嬢様をとらえる。お嬢様はわずかばかり恥ずかしそうに微笑んだ。
暫くすると、マリーが瓶に入ったジュースを持って帰ってくる。その隣には新しく少女が加わっていた。少女は私たちを見つけるとぱっと顔をほころばせる。
「こんにちはレイチェル様、リーフお姉さん!」
私たちがこの街に足を運ぶきっかけにもなった少女、リンだった。そもそも彼女が怪我したのを助けたのがこの街にくるきっかけだった。
マリーは「見かけたので連れてきちゃいました」と親指を立てた。
「おや、薬草ですか」
ディーはリンのもつ紙袋を見つめた。
「そ、そうです。うちの家は薬屋なので、お母さんに頼まれた薬草を買いにきたんです」
リンはしどろもどろにそう言うと、助けを求めるような目でこちらを見る。彼女は人見知りの傾向があるのだ。はじめて会うディーに戸惑っているのだろう。
そのとき。
「あ、薬屋の娘じゃねーか」
突然だみ声がしたと思ったら、大柄な男たちが三人近づいてくる。片手には昼間だというのに酒瓶が握られている。マリーが「酒臭い」と鼻をつまんだ。
リンは私の袖を握って一歩後ずさる。あまりいい展開ではなさそうだ。
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