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第67話 メイドの熱血指導
「レオン、もっと背筋を伸ばしてください。お嬢様の騎士なんですから、びしっと格好良くいかないと!」
マリーの叱咤にレオンは情けない声をあげる。お嬢様はその様子を見ながらくすりと笑った。
「楽しそうね」
「あの子、人の世話を焼くのが好きですから」
レオンがバルド家の屋敷に住むようになってから数日。彼の教育係りにはマリーが指名された。
もともとマリーも孤児院で育った庶民の子どもだ。レオンの教育をするには同じような立場だったマリーが適任だろうということになったのだ。
レイチェルお嬢様の騎士になるということは、社交界に出入りをすることも求められる。社交界の常識を身につけなければ、お嬢様に恥をかかせてしまう。
レオンには申し訳ないが、そこはきちんと覚えてもらうより仕方がない。
「お嬢様、パッサン卿より手紙が届いておりました」
「あら、今回の返事は速いわね」
手紙を渡すと、お嬢様は封をきって三枚の便箋を取り出した。一枚目に目を通すとお嬢様はおかしそうに笑って、私に回した。
達筆な文字に視線を下ろす。
手紙にはレオンのことが書かれていた。先日お嬢様がレオンを騎士に迎えたと手紙で報告しており、その返事のようだ。
いわく、「エマを助けた少年とのことだから、一度研究室に連れてこい、礼をさせろ」とのことだ。
「パッサン卿も、孫には甘いですね」
「エマは暴漢の件も含めて、レオンのことを今まで言っていなかったらしいわ。そんな大事なことをなぜ言わなかったのかって、パッサン卿はずいぶん怒っているようね」
二枚目、三枚目の便箋へと目を通したお嬢様は満足そうだった。
「レオンを迎えたことは、悪いことでもないだろうとパッサン卿も言ってくださっているわ」
「手紙にはなんと?」
「わたくしが街の人々と繋がりをもつことは、貴族令嬢として例のないことだけれど、いい戦略ですって。あの街は比較的発展しているし、宮廷にも近いから庶民の声も貴族社会に届く。街の人がわたくしを評価してくれれば、貴族たちのわたくしに対する意識も変わるかもしれないって」
民なくして貴族の生活も成り立たない。庶民を馬鹿にする貴族もいるが、街の人々の意志も重要ということだろう。
「順調ですね」
「ええ」
実際、社交界でもお嬢様の認識は変わりつつある。パーティーへの招待状も日に日に増えていた。お嬢様の権威を取り戻すという目的を叶えるのはそう遠くないかもしれない。
「あ」
「どうしたの?」
ふと、窓の外をみると見知った人影が見えた。
首をかしげるお嬢様に「少しはずします」と一礼して背を向けた。
「レオン、大変だと思うけど頑張ってね」
「はいっ」
疲労困憊の様子のレオンに一声かけて、私は別館を出た。
さきほど人影が見えた辺りに移動して周囲を見渡せば、名前を呼ばれる。そちらを見ると、銀髪の男が微笑んでいた。
「お疲れ様です。今、少しよろしいですか」
「ジル」
ライラ様の使用人である優男のジルはうやうやしく会釈をした。それが絵になるのだから少し腹立たしい。
「ライラ様がリーフとお話をしたいとのことです。もしお時間あるようでしたら、一緒に来ていただけますか」
「ライラ様が――分かりました」
頷くと、ジルは歩き出す。
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