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第69話 秘密の場所
庭の中央は空間が開けている。
薔薇に囲まれた小さな空間。奥様は「秘密の場所」と呼んでいた。そこに、白いテーブルと椅子が置かれている。その配置も、昔のままだ。
「リーフ、久しぶりね。忙しいでしょうに、来てくれてありがとう」
ライラ様が立ち上がって微笑んだ。
薄桃色のドレスをまとった彼女は、相変わらず綺麗に笑う。レイチェルお嬢様とはまた違う美しさだ。
どうぞ、とライラ様は正面の椅子を指した。すでにジルが椅子をひいて待っている。主家の人間と席を共にするのは抵抗があるのだが、ここまでされては後にひけない。渋々と椅子に腰かけた。
「最近、みんなお姉様のことを褒めているわ。以前よりも朗らかで近付きやすくなったって」
ライラ様も座りながらそう言った。ジルは紅茶の支度を始める。
「この前お友達の家のお茶会に行ってきたのだけど、そこに来ていたご令嬢方が、お姉様のダンスがとても美しいと評判になっているから今度自分の家のダンスパーティーに招待したいって口を揃えて言っていたの。招待状、最近ではたくさん届いているんじゃないかしら」
「はい。嬉しいことに、出席するパーティーを選りすぐらなくてはならないほどにいただいております」
日に日に招待状は増えていた。全てに参加することはできないが、かつて親しくしていた貴族主催のものを中心に顔を出すようにしているから、お嬢様の予定は詰まるようになってきた。
招待状の数は、お嬢様の評判が上がっていることを目に見える形で示してくれた。
「パッサン卿に、ディーテ。今まで誰も寄りつけなかった方々と親しくしているのでしょう。流石お姉様だわ」
ジルが淹れてくれた紅茶を飲んで一息つくと、ライラ様は優しく微笑んだ。
「このままいけば、后にだってきっとなれるわ。リーフもたくさん頑張ってくれたのよね。ありがとう」
「いえ――でも、お礼を言わなくてはならないのは私の方です」
ライラ様は首を傾げた。
「ライラ様がお嬢様のことを気にかけて行動してくださらなかったら、こうはならなかったと思います。だから、ありがとうございます」
きっと、彼女がいなかったら今もお嬢様は屋敷に閉じこもっていたと思う。私も、一歩踏み出してお嬢様と向き合う勇気は出せなかっただろう。
全部ライラ様のおかげだ。
私はもう一度お礼を述べた。
それに。
「ジルから、庭のお話を聞きました。お嬢様の想い出を壊さないために、昔と変わらぬ姿をライラ様が残そうとしてくれているのだと」
ライラ様は驚いてジルをみた。このことを私に伝える気はなかったのかもしれない。
ジルは飄々と微笑んで、けれどうやうやしく頭を下げた。
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