第70話 すこしの違和感と大きな衝撃

1/1
前へ
/124ページ
次へ

第70話 すこしの違和感と大きな衝撃

「庭は、お嬢様の大切な場所です。守ってくださって、ありがとうございます」 「ううん、これは私が勝手にしているだけだから。お礼を言われるようなことじゃないの」  ライラ様にその気がなくとも、この庭の姿が私は嬉しかった。懐かしくて、優しい場所。そういう、人が喜ぶ行為を素でできるのだから、彼女はきっと。 「とてもお優しいのですね」 「え?」  ライラ様は一瞬目を見開いた。驚いたようにこわばった表情で私を見た、と思う。ほんの一瞬だったから気のせいだろうかと思ったが、なんとなく気になった。 「――ライラ様?」  私はなにか、変なことを言っただろうか。  しかし、ライラ様はすでにいつもの微笑みを浮かべている。 「本当に、気にしなくていいのよ。――ともかく、これでお姉様が后になるための基盤はできてきたわ。お父様が今後どういう動きをするのかは分からないし、まだまだ貴族の中にもお姉様を軽くみている人も多い。懸念要素も他にたくさんあるけれど、頑張りましょう」  ライラ様はぱちんと手を叩いて話を締めくくった。  そのとき。 「なんの話をしているの」  聞き慣れた声がした。  小さな秘密の場所に通った声。振り向くとかたい表情をしたレイチェルお嬢様が立っていた。その後ろには不安気に視線をさまよわせるマリーと、心細そうなレオンがいる。 「お嬢様」    どくんと心臓がなる。  やましいことをしていたわけではない。全てお嬢様のためにしていることだ。だけど、お嬢様の知らない場所で勝手に行動をしていることは事実。主人に隠し事などすべきではないのに。  後ろめたさが募る。 「お姉様、いつからそこに?」 「途中からよ。盗み聞きのような真似になってしまったことは謝罪するわ。ごめんなさい。でも、どういうことなの? 庭のことも、わたくしを后にするためにあなたたちが動いてくれていたってことも、――本当なの?」  ライラ様は困ったように微笑んだ。 「本当ですわ。庭については――お話を聞いていたのなら分かるように、私が勝手にしたことです。でもお姉様を后にしたいというのは、私もリーフも本気で思っています。お姉様に内緒でリーフに会っていたことは申し訳ないけれど、本気でお姉様のことを思っているからこそです」  だからリーフのことを責めないでくださいね、とライラ様は続けた。  お嬢様はわずかに私を見てから、もう一度ライラ様に向き直ってどうしてと問いかけた。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

732人が本棚に入れています
本棚に追加