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第74話 絶対的な言葉1
この二人が面と向かって話をするのは何年ぶりだろう。それなのに、久しぶりに会う親子の会話とは思えない。
「ずいぶんと小賢しく動き回っているようだな」
じろりと鋭い目を向けながら旦那様は言う。わずかにお嬢様の肩が揺れた。
「お前とその母が自分勝手に行動をした結果、バルド家の名誉に傷がつけられたこと、忘れたか。妙な噂ばかり立てられて迷惑だ」
「お父様」
ライラ様が咎めるように声を上げたが、旦那様が手で制すと押し黙った。この家にいる人間には、旦那様ほど強大な存在はいない。実の娘であっても、父に逆らうことは容易ではない。
しかし、家名に傷をつけたとは言うが、もとはといえば旦那様が原因だろうに。よくそんなことが言えるものだ。
つい、旦那様に非難の目を送ってしまう。
「お前の使用人、カインツ家の娘だったな」
突然、じろりと睨まれた。まさかこの場で自分の話が出るとは思わず、自然と目を見開いた。
「そうですが、なにか」
お嬢様が問う。
「カインツ家は我が家に代々仕えている由緒のある使用人一族だ。カインツ家の使用人は優秀だと社交界でも名が通っている」
つらつらとそんなことを述べる。私は戸惑いながら、一応褒められているらしいことに頭を下げた。
しかし旦那様が手放しで私を褒めるなんて思えない。不安と不信感が募る。
次の旦那様の言葉を緊張して待つ。旦那様は「だから」と緩慢な動作で腕を組んだ。
「お前にはもったいないだろう」
は、と声がもれる。
全員が息をのんだ。お嬢様も目を見開いて、
「もったいないって――どういうことですか」
「由緒のある使用人が、家に傷をつけたお前に仕えているなんてもったいないだろうと言っている。カインツ家の娘であるならば、未来ある令嬢に仕えるのが筋というもの。お前よりも、ライラの方がその使用人の主人として相応しいだろう。よって、本日よりその娘をライラにつける」
あっけにとられた。
私に、ライラ様の使用人になれというのか。今までずっとレイチェルお嬢様にお仕えしてきたのに。
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