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第83話 ダンスと格闘
みんなが見つめる先をみると、そこには深紅のドレスを揺らして踊るレイチェルお嬢様がいた。ダンスの相手はディーだ。今日は深緑の髪を白いリボンで結わえている。
動くたびにひらりと揺れるお嬢様のドレス。深紅のドレスの裾には黒いリボンがあしらわれている。光沢のある布地は夜会の照明に照らされて美しく輝いていた。
「綺麗だわ、お姉様」
気まぐれな天才芸術家のディーのダンスというだけでも人の視線を集めるが、お嬢様も負けてはいない。本当に、綺麗だ。
ふと、会場の隅にマリーとレオンの姿を見つける。二人ともいつもより身なりを整えていて雰囲気が違っていたから、すぐには気付けなかった。
二人、とくにマリーは会場の人間がお嬢様に見とれているのを満足そうに見ている。いわゆるドヤ顔という表情だ。
私も、お嬢様に仕えていればあの二人にまじっていられただろうに――。すこしだけ寂しくなった。
「レイチェル様の騎士とはどなただろうか」
背後からそんな男の声が聞こえた。気になって、そちらの会話に耳を澄ませる。
「騎士学校の交流試合でいい闘いをしたと聞いているが」
「飛び入り参加で騎士学校の生徒に引けを取らないとは、なかなかですな」
宮廷が管理する騎士学校では年に二度、交流試合と称した催しをしている。騎士学校の生徒、そして貴族の騎士や民間の腕利きが集まってトーナメント戦をする祭りだ。
そこに、レオンも参加をしていたらしい。優勝とはいかないまでも、なかなかいい結果を残したようだ。
レオンに実力はじゅうぶんある。足りないのは名声。交流試合はその欠点を埋めるための作戦といったところだろうか。私も見に行きたかった。
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