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第87話 聖女か悪女か2
「私はひどい人間なんです。お姉様の生活を犠牲にして、自分だけ優越感に浸る。でも、あるときそれはとても醜いことなのだと気づきました。だから私はお姉様に昔と同じ立場を取り戻してほしいと思った。お姉様が私の上をいってくれれば、もう私は醜い感情をもつこともなくなるし、今までの私の罪も消えると思ったから」
一息でそう言って、だからと言葉を繋ぐ。
「お姉様は何も悪くないんだってお父様や貴族たちに訴えました。でもそうしたら、君は優しい子だねってまた褒められるんです。そんなの望んでいないのに」
ふと気づく。
ライラ様が「優しい」と評される度に苦い顔をしていたことを。きっと彼女はそうして褒められることを何よりも嫌っているのだろう。本当の自分は醜いのに、と。
「嫡子であるお姉様が后になるべきだという思いは本当です。でも、お姉様には幸せになってほしいんです。今まで私の犠牲になったぶんも。それにもう、これ以上私は自分を醜いと思いたくないから」
その思いで、ライラ様はこれまで動いてきたのだろうか。
「お姉様は順調に名を上げてくれました。もともとお姉様はそれだけの素質も努力もあったんだから当然です。――お姉様は優しい人です。今まで悪いことをしたって、この前私なんかに頭をさげてくれた。悪いことをしたのは私の方なのに――、ますます自分が小さな人間に思えました」
ライラ様は泣きそうに顔を歪めて俯いた。
沈黙がおりた。
ガラス戸の向こうから音楽が漏れ聞こえてくるだけで、バルコニーには夜の静けさが漂う。
夜の風は冷たい。私も俯いた。
ライラ様の辛さ。悲しみ。恨み。そういうものにはじめて触れた。まだ自分の理解も、感情も追いついていない。どう処理すればいいのか分からない。
沈黙を破ったのは王子の声だった。
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