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第92話 伸ばされた手
お嬢様にマリーとレオンも加わって本館に移動する。
私たちが部屋に入ったのを確認すると、ライラ様はジルに支えられながら体を起こした。お嬢様がわずかに眉をひそめる。
「ごめんなさい、お姉様。急に呼びつけるような真似をして」
「構わないわ。体が辛いのなら起きなくてもいいのよ」
ゆるゆると首を横に振って、ライラ様は膝の上に手を重ねた。
「聞いていただきたいお話があるんです。この話をするのは私のわがままだし、お姉様にとって気分のいいものではないと思います。でも、お話をさせてください」
お嬢様は無言で頷いて、ベッド横の椅子に腰を掛けた。
「あの、もしお邪魔でしたら私たちは退室いたしますが」
重々しい空気を察したのか、マリーが控えめに右手をあげてそう言った。隣ではレオンも心配そうに見守っている。
「いいの。あなたたちもここにいて。お姉様の大事な側付きなんだから、二人にも聞いていてほしいわ」
マリーとレオンは顔を見合わせて、神妙に頷いた。
ライラ様は宮廷のダンスパーティーで王子に語ったことと同じ話をした。レイチェルお嬢様のことを憎んでいたことも、自分が善意だけで動いていたわけではないことも。
誰もなにも言わなかった。ただ黙ってライラ様の話を聞いていた。
全て話し終わると、ライラ様は俯いた。ごめんなさい、とか細い声がする。
「ずっと謝りたくて、でも色々な理由をつけて私は逃げてきたんです。ごめんなさい」
俯くライラ様の表情は分からないけれど、膝の上におかれた青白い手に涙が落ちた。重々しい沈黙が続く。
「そうだったの――」
お嬢様は吐息を吐くようにそう言って、そっとライラ様に手をのばした。ぴくりと揺れるライラ様の肩。
お嬢様はゆっくりとライラ様の頭に手をのせた。不器用に、その髪を撫でる。
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