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ついに明日が中学生最後の日。
この三年間の思い出を振り返ってみようと本棚からアルバムを出して見返す。
入学式、体育祭、合唱コンクール、親友の春奈やクラスメイトと撮った写真は、あの時の楽しかった思い出を呼び起こしてくれる。
懐かしいなぁと思いながら、どんどんアルバムのページをめくっていくと、あっという間に最後のページになってしまった。
もっと昔のアルバムまで見返したくなってしまって、見終わったアルバムを本棚に戻し、隣のアルバムを机に乗せて開く。
「わー、ちっちゃい」
幼稚園の入学式の日に我が家の前で撮った写真はちっちゃいヒロくんと手を繋いでる。ページをめくってもしばらくはヒロくんと一緒の写真ばかりが続いていく。
ヒロくんは私の隣の家に住んでいるということで、小さい頃はいつも一緒に過ごしていた。
あの頃、ヒロくんとは大の仲良しで、親友で、恋人で、家族のような存在だった。
アルバムのページをめくっていくにつれて写真の中の私たちは成長していく。そして、二人で一緒に撮った写真は少なくなっていく。
お互い同性の友達と一緒にいることが多くなり、小さい頃みたいに二人で一緒にいる機会も少しずつ減っていった。
「ヒロくんと一緒に写真を撮りたいなぁ」
最後に一緒に撮った写真は修学旅行での集合写真だ。
こんな小さく写っているのじゃなくて、二人で一緒に写真を撮りたい。
明日は卒業式で一緒に写真を撮る最後のチャンス。
でも、それは叶わないかもしれない。
ヒロくんに彼女ができたみたいなのだ。
三年生の夏に部活を引退してから、放課後はヒロくんと一緒におしゃべりをして帰っていたのに、最近はHRが終わると一人ですぐに家に帰ってしまう。
受験勉強が忙しいから、と言っていたけれどヒロくんに彼女が出来たのだと思っている。
そう思う最大の理由は、女の人と一緒に本屋さんにいるのを目撃してしまったからだ。少し大人びていたから、たぶん高校生だ。
ショックだった。
彼女が出来たこともショックだったけれど、それを私に内緒にしていたことが一番のショックだった。
何でも話をしてくれると思っていたのに、裏切られた気分だった。
でも、私も悪いのかもしれない。
今までずっとヒロくんの事を想っていたのに、きちんと気持ちを伝えたことはなかった。
だから、他の人に先を越されてしまったのだ。
「はぁ、ヒロくんの事が好きなのに」
呟いてみても何も変わらない。
明日の卒業式がちょっとだけ憂鬱になってきてしまった。
卒業式は無事に閉式し、最後のホームルームも終わった。
席を立つと親友の春奈が駆け寄ってきて、一緒に写真を撮ろう、と言ってきたので「うん」と笑顔で答えたものの、ヒロくんが帰ってしまわないか心配でならなかった。
春奈はスマホを取り出しインカメラを起動し、顔を寄せ合って写真を撮る。
笑顔の次は変顔したり、泣き顔をしてみたり、表情やポーズを変えては次々とシャッターボタンを押す。
春奈と一緒に写真を撮るのは楽しいけれど、ヒロくんとも一緒に写真を撮りたい。
そう思っていると「なぁ、俺たちも写真撮ろうぜ」と後ろから声をかけられた。
春菜は気を使ったのか「ちょっと向こう行ってるね、がんばってね」なんて言って教室を出ていってしまった。
ヒロくんは自分のスマホを取り出してインカメラを向ける。
「待って」
「何?」
「ヒロくんは私と写真撮っていいの?」
「え? どういう意味?」
「ほら、彼女いるんじゃないの?」
「彼女?」
ヒロくんはこいつ何言ってるんだっていう顔をしている。
「ほら、最近家に来ている女の人。この前本屋さんで一緒にいるのみたし。あれ、彼女なんでしょ?」
「……。あはは」
ヒロくんは突然大声で手を叩いて笑った。
「何で笑うの?」
笑われる意味がわからない。
「あれは彼女じゃないよ。ただの従姉妹」
「従姉妹?」
「最近、勉強を教えてもらってたんだ。本屋に一緒に行ったのは参考書を選んでもらうため」
「えー、なんで教えてくれなかったの? そういう事ならちゃんと話をしてくれれば良かったのに」
「実はお前を驚かせたくてさ。俺、足利中央高校に補欠で合格しました!」
「えーーー! うそ!?」
足利中央高校は私が進学する高校だ。偏差値がちょっと高いから部活ばかりやってたヒロくんには無理だと思っていた。
「すごいよ! すごい、すごい!」
しばらく、すごいの言葉しか出てこなかった。
「でも、発表日はもう少し前だったんじゃないかな? すぐに教えてくれればよかったじゃん」
「言おうと思ったけど、なんかお前の様子がよそよそしくて、言えなかったんだよ。ごめん」
ヒロくんは頭を下げた。
「だから、高校行ってからもよろしくな」
私は頷くとヒロくんは肩をポンと叩いた。
「じゃあ、写真を撮ろうぜ」
「うん」
ヒロくんはスマホを構えてインカメラを起動し、シャッターボタンを押した。
保存された写真は、涙を流している私と、ヒロくんの最高の笑顔が写っていた。
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