3 秘密

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 とにかく冴子が電車を降りてくれないと、どこに行こうとしているのか分からない。  当然電車のスピードと徒歩のスピードは違うから、俺たちはバマホに表示される対象の移動スピードで、対象が何で移動しているのか推測する。早ければ電車か車、遅くなれば徒歩。だが都心は乗り換えも多い。スピードが落ちたからと言って、すぐには判断が付かない。  アキラと二人、半ばケンカしながら、ああでもないこうでもないと言っているうちに、やっと冴子は電車を降りたようだった。 「これは、目的の駅につきましたね」  アキラの言葉に俺は頷いて、ため息と共に首都高を下りる。 「こりゃ、どこに入ったか検討つけるの大変だぞ」  都心のど真ん中のオフィス街。ビルが密集し乱立しているこの地区で、バマホの性能では、どのビルかまではすぐに特定できない。  バマホのナビ性能はカーナビ程度だ。  目的地周辺までしか分からない。この辺りは建物がありすぎる。更に建物内でもフロアごとに分かれていたりするから、お手上げ状態だった。  そこで俺たちの足と目で探そうと思っても、この人の多さでは、見つけられる可能性は低かった。  それでもバマホと共にアキラを先に降ろし、俺は車をとめに行った。車のままでは動きにくい。  近くのコインパーキングはどこも満車で、俺は焦りながらも、少し離れた駐車場にとめられたところで、アキラから電話がかかってきた。 「マルさん?多分、ここだと思うんですけど」  アキラが告げたのは、病院ばかりが入っているビルだった。バマホの点滅はここで止まっているらしい。ただ、冴子の姿は確認していないので、そのビルのどのフロアにある病院に入ったかは分からないと言う。 「……何科がある?」  病院に入ったのなら、しばらくは動かないだろう。俺は可能な限り早歩きしながら、アキラに尋ねた。  内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、整形外科、眼科、歯科……一通り揃っているようだった。そして…… 「産婦人科」  最後にアキラがそう言ったのを聞いて、俺は急いでいた足を一瞬止めた。 「アキラ、お前、とりあえずその産婦人科に入れ」 「ええっ?」 「俺は一応、ビルの入り口張っておくから」  ただの体の不調では、家族を欺いてこんなところまで来ないだろう。家族にバレたくないのだとしたら…… 「入ってどうするんですか?」  混乱しているアキラに「保険証持ってるだろ?」と言ってやる。 「ええ?わたし産婦人科に用なんてないですよ!」  そう、冴子はあったわけだ。 「生理不順とでも言っておけ」 「はぁ?セクハラ!」  どうやら正気に戻ったらしい。元気に大声を出すアキラを「まぁまぁ」と電話越しに宥める。 「冴子を確認したら、それでいいから。それとも、妊娠したかも、とでも言うか?」  悪質な冗談を言うと、電話はブツッと切られてしまった。  俺はまた速足に戻り、現場に急いだ。  冴子が妊娠しているとして、誰の子だ?  張っていたのは二週間足らずだが、冴子は職場であるレンタルショップと自宅の往復しかしていない。そのほかの場所にいたのは、初日に見たあの土手だけだ。男の影どころか、友人に会っている所も見ていない。  あの妙に馴れ馴れしいという店長だろうか?  だがアキラが言うには、冴子は店長に一ミリも好意を持っておらず、むしろ嫌がっているという。  店の外で一緒にいるところも見たことがない。  だからと言って、何もなかったとは言い切れないが……。  他には…と眉間にしわを寄せたところで、妊娠と決まったわけではないことを思い出した。事実確認が先だ。俺は先を急いだ。
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