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アキラが言うように、店長は冴子を気に入っているようだった。ただ、問題になるような店長の行動は見られなかった。あくまで男の俺から見ればだが。
相手が嫌だと思えばセクハラになるのなら、冴子は確かに店長が好きではないようだった。
こりゃ確かに、腹の子の父親が店長ってことは絶対ないな。
「矢島さんって、彼氏いないんすかね」
俺は一緒に働いている上田さんというおばちゃんに、こっそり訊いてみた。いつでもどこでも、おばちゃんは強い味方だ。現にこのおばちゃんは冴子を気に入っていて、さりげなく店長のアプローチから冴子を守っている。
冴子が休憩に入っている時に、さりげなく訊いたつもりだったのに、上田さんがぎょっとした顔をしたので、こちらまで驚いてしまった。
「シッ」上田さんは怖い顔で、俺を制止すると、スパイみたいな目で休憩室の方を伺った。
「あんたも矢島さん狙ってるのかい?」
殺し屋のような抑えた声に、俺の声も自然と低く、囁くような声になる。
「そんなんじゃないですけど、単なる興味で」
これは本当だから、本心でそう言うと、上田さんは重々しく頷いた。
「それならいいけどさ。矢島さん家、お父さんがすごく厳しい人なんだって。仕事終わったら、すぐ帰らなきゃならないし、彼氏なんてとんでもないって言ってたよ」
「え?だって、彼女もういい大人ですよね?」
俺が驚いて見せると、上田さんは我が意を得たりと頷いた。
「そうでしょ?ちょっと、おかしいよね? だから店長みたいなのに、好かれちゃったりするんだよ」
上田さんが興に乗って、ブツブツ文句を並べたてるのを聞きながら、俺は一つの可能性が頭に浮かんでいた。
俺は無理やりその可能性を打ち消した。決めつけるのは、時期尚早だ。
だが、その可能性が本当なら、冴子はどうするだろう。
冴子というバケモノは。
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