4 罪

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「矢島さん?大丈夫ですか?」  俺が声をかけると、冴子は検分していた返却商品から、ぼんやりと顔を上げた。  顔が少し赤い。目が潤んで、視点が定まっていない。体調が悪いのは明らかだった。 「ああ、ええ」  冴子は中途半端な返事をして、大儀そうに立ち上がった。 「大丈夫……」  言いかけて、ふらりと身体が揺れて、たたらを踏んだ。足がふらつくらしい。  俺は咄嗟に支えようと腕を伸ばしたが、冴子はかろうじて自分で踏みとどまった。 「体調悪いんじゃないですか?顔も赤いですよ」  熱を計れば、きっと発熱しているだろう。 「今日は帰らせてもらったら……」  俺が言いかけると、冴子は慌てたように首を振った。そのせいで、頭痛がしたのか、顔をしかめる。 「大丈夫、大丈夫よ。でも、ごめんなさい。ちょっといいかしら?薬持ってるから、飲んでくるわ」  そう言ってカウンターを離れると、休憩室に入って行った。  それを見送ってから、俺は気が付く。  ちょっと待て。  妊娠中って、薬はまずかったんじゃなかったか?  俺が慌てて、休憩室に飛び込んだとき、冴子はちょうど薬を飲み込んだところだった。  水を入れたコップを持ったまま、驚いた顔で俺を見る。 「真田さん?どうしたの?」  急に飛び込んできた俺に、身構えている。  馬鹿か俺は。  俺が冴子の妊娠を知っているわけがないんだ。そんなことを言ったら、たちどころに警戒と恐怖の目で拒絶されるだろう。 「あ、いや。具合悪そうだったんで、一人で大丈夫かなと」  しどろもどろにそう言ってみせると、冴子はフッと警戒を解いた。 「大丈夫よ。子どもじゃないんだから」  彼女の手元にある薬のパッケージに、チラリと目をやる。  風邪薬と解熱剤。両方飲んだのか。  妊婦に薬はあまりよくない。胎児に影響が出るからだ。  それを冴子が知らないという可能性も、もちろんある。  でも、俺はうすら寒い予感がしてならない。  冴子は妊娠しているという気配すら漂わせない。その事実を知っている俺でさえ、「妊娠の可能性」の気配を見つけることができない。  もちろん妊娠初期だし、お腹も出ていない。つわりがなければ、体調も変わらないのかもしれない。  だけど、それにしたって、冴子は以前と少しも変わらず過ごしている。まるでお腹の子のことなど、忘れたかのように。
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