4 罪

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「あ、思い出した」  コンビニの向かい側にあるマンションのエントランスに入ると、アキラが藪から棒に声を出した。  野島家から近いこのマンションを、俺たちは当面の基地にしている。立派なマンションだが、俺たちの部屋には、寝袋と電気ポットくらいしか生活用品はない。後は「なかよしマートのおもちゃ」に付随する器材に占領されている。 「なんだ?」  俺が驚いてアキラを見ると、アキラはすっきりしたような顔で、俺を見上げた。 「さっきの車いすの男性ですよ。なんか、どっかで見たことあるなと思ってたんですよね」 「この近所なんじゃないか?冴子ん()張ってた時に、見かけたとか」  何も不思議な事じゃないと、俺が言うと、アキラは首を振った。 「あれですよ。冴子が病院に行った日、ビルから出たところでマルさん待ってたじゃないですか?わたし、ビルから出る時に、車いすの人とぶつかりそうになって……その人に似てた気がする……」 「……似てた、だろ?だいたい、そんな一瞬じゃ、顔なんか見なかっただろ」 「まぁ、そうなんですけどね」  アキラははっきりしない口調で、すねたように言った。 「だけど、その人、冴子の後ろをついていったように見えたんですよね」 「へぇ?」  はっきりしないくせに、妙に気になることを言う。 「なんで、その時言わなかったんだよ?」  いや、だって……とアキラは弁明するように言った。 「その時は何にも思わなかったんですよ、距離もあったし。だいたい人の流れっていうのは同じ方向でしょ?……ただ、後で、あの人急に方向変えたな、と思って」  車いすだから、目についたのだという。  だがそれだけで、深くは考えなかった。 「そういう気づきは、バンバン言って欲しかったな」  俺はそう苦言を呈したが、その男がコンビニの車いすの男と同一人物かどうかも分からない。  ……車いすか。 「まぁ、似てる、程度じゃ、どうしようもないな」  俺はそう言うと、アキラは「ですよねぇ」と頭を掻いていた。  それが同一人物であったことは、数日後に判明することになる。
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