1 バケモノ

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「心の(バケモノ)を抜き取られた者を、バケモノって呼ぶのも変だよな」  公園のベンチに落ち着いた俺たちは、買ってきたハンバーガに喰いついた。アキラのポテトはもう半分はなくなっていた。  青空は高く、白い雲がちらほら浮いている。木々が青々と茂り、鳥が隠れているのか、歌う声が聞こえた。  こんな美しく平和な昼下がりに、バケモノの話は不似合いだが、俺は先ほどのえくぼの女の子が気になっていた。  バケモノと呼ばれるが、当人がバケモノだとバレることはほとんどない。アキラのような特殊な人間は別として、普通の人が見れば、ただの良い人と、ロストアンガーを受けて良い人間になった人とは、区別がつかないからだ。  ロストアンガーを受けても、記憶は消されることはない。罪を犯した自覚があるバケモノたちは、自分を知っている者がいる土地には行かないし、手っ取り早く顔を代えてしまう者も多い。  知っている者がいなければ、ただの良い人なのだ。ちらりと疑う人がいるかもしれないが、まさかこんな良い人がという心理が働いて、うやむやになり、やがてその疑いも風化していくことが多かった。 「それはそれで、人間じゃないんですから、バケモノでいいんじゃないですか」  アキラがぶっきらぼうに言った。  アキラは徹底して、ロストアンガー嫌いだ。  手についた油をペーパーで拭っていると、ポケットに突っ込んでいたスマートフォンが震えた。  取り出して表示を見ると、「なかよしマート」から着信。 「アキラ仕事だ」  俺は短く言って立ち上がった。 「なかよしマート」は俺の職場だが、決して「なかよし」な職場ではない。  アキラは音をたてて、シェイクを最後まで吸い上げた。まったく、食事の時に甘いシェイクを一緒に飲むことが、俺には信じられない。  アキラはのっそり立ち上がり、ゴミを俺に押し付けた。
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